機関紙143号 (2018年6月2日発行)



もくじ

忘れてはならない、福島の惨状
「避難指示解除」だけでは「故郷への帰還・生活再建」はできない

  真木 實彦(福島県九条の会代表)
   「避難指示解除」政策は成功せず
   「両にらみの復興=複線型復興」への転換を

「九条秘話」
憲法改正・原点に戻る考察が必要
「ポツダム宣言」受託は平和国家の約束

 林  茂雄(名古屋外国語大学名誉教授)
  草案は保守的な内容
  戦争放棄を第一条にと
  まだある「言論の自由」

国会会期末へ暴走する安倍内閣
「カジノ反対」の世論は明瞭
違法賭博を合法にはできない

 竹腰 将弘(ジャーナリスト・山口在住)
  初の民営賭博解禁
  廃案しかない

鈴木 彰の「モリとカケ喰い終わるまで待ってくれ?」

「憲法記念日」の新聞を読んで
  【朝日新聞】
  【毎日新聞】
  【東京新聞】
  【読売新聞】
  【日経新聞】
  【産経新聞】

太郎の部屋のほっとたいむ 63
 鈴木 太郎(詩人・演劇ライター 中新井在住)
  前進座が黙阿弥の散切喜劇を上演

コ一ヒーブレイク
 原 緑
  《地方紙》

紹 介
映画「米軍が最も怖れた男 その名はカメジロー」

事務局から
  ▼総会へご参加を
  ▼「安倍9条改憲NO!」署名650筆に 
  ▼6月3日、北浦和で「オール埼玉15000人総行動」
  ▼「平和のための戦争展」





忘れてはならない、福島の惨状
「避難指示解除」だけでは「故郷への帰還・生活再建」はできない

真木 實彦(福島県九条の会代表)

「避難指示解除」政策は成功せず

 昨年3月から4月にかけて、原発立地町である双葉、大熊町の全域を除く双葉地域市町村の「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」が全面的に解除された。

 それから1年あまり経過したが、県が掌握している限りで今だに帰還していない人の数は5万人近く、実際は、7〜8万人かとも言われている。町村毎の状況は次の通りである。浪江町(帰還者数440人、避難者数20681人)、富岡町(帰還者数376人、住民登録人口13283人)、楢葉町(帰還者数2105人、避難者数5037人)、飯館村(帰還者数505人、避難者数5326人)、葛尾村(帰還者数209人、避難者数1180人)。なお、双葉町、大熊町は今年2月現在それぞれ6925人、10530人の町民全員が避難中である。

 これら帰還実態の推移をみれば、国の「避難指示解除」の措置が直ちに故郷への帰還・生活の再建に繋がっていないことは明らかであろう。

 生活再建のための住まいの確保や生業の再開・就業機会の確保に繋がる地域産業の再構築、そして医療・福祉・教育の再建、さらには被ばく放射線量の定期的測定とモニタリングと情報開示などの見通しがなければ、人々の帰還への得心感は生まれない。加えて、除染による放射線物質の「仮置き場」への長期にわたる集積や「中間貯蔵施設」への移動と長期間の貯蔵に対しても安全性への問題が指摘されている。 さらに、福島第一原発事故の収束や廃炉の見通しも立っていないだけでなく、汚染水トラブルなども発生している。

 不安の消えない一方で、被災者の多くは避難先での生活再建に懸命に取り組んでいる途上でもある。しかし、福島県は2017年3月、「自主避難者」への住宅無償提供を打ち切った。したがって、「避難指示解除」地域の避難者も一年後には「自主避難者」と見做されることになる。「避難指示解除」を強行することによって「故郷復興」を促進しようとする現在の政策は、かえって被災者の生活再建にとって大変苛酷なものとなっている可能性は高い。

「両にらみの復興=複線型復興」への転換を

 原発災害の収束・克服があまりにも長期間かかるために、人々のライフ・サイクルとの間に深刻なギャップが生じ、そのために避難先で新たな生活を本格的に始めざるを得ない人々を多く生み出しているという事情を深刻に受け止める必要があると思われる。

 故郷に戻る人にとっても戻らない人にとっても、住まいを確保すること、就業の機会を確保すること、そして子供たちの教育の場を確保すること、などが課題となろう。さらに、孤立しがちな避難者に寄り添い、避難者が避難先のコミュニティーになじめるような丁寧な取り組みがぜひとも必要だ。

 また、避難先で共生できるコミュニティーづくりに配慮すると同時に、故郷での絆も守りうるという両面を共に保証することである。避難している被災者と帰還して故郷で生活を始めた被災者が、互いに安否を確認し合い、絆を深め合う交流の機会を実現することが必要である。そのために、避難者が盆暮れ・彼岸時などに短期的に宿泊できる「施設やサービス」を用意することも考えられる。「故郷の再建」を重視するあまり、避難先から無理に追い立てるような短絡的な政策は、とりわけ原発事故のような長く続く災害に対しては取るべきではない。

 全国に避難し続けざるを得ない被災者のへの支援や避難先の地域コミュニティーとの共生を進めていく活動は、今後なお一層重要な課題となっていくと思われる。深いご理解を頂きたいところだ。
(福島大名誉教授)




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「九条秘話」
憲法改正・原点に戻る考察が必要
「ポツダム宣言」受託は平和国家の約束

林  茂雄(名古屋外国語大学名誉教授)

 道に迷ったら来た道を戻るのが登山の鉄則。憲法改正問題も現行憲法がどのように出来たかを知るのが必要と信じる。それは1945年の敗戦前後の事情に関わる。何を今更と言われるかも知れないが、日本の敗戦は米、英、ソ連、中国(蒋介石政権)が突き付けた「ポツダム宣言」を受託した形で行われた。日本は『国体護持(天皇制)を条件にしたが連合国は無視した。結局、同宣言を「無条件」で受託した。同宣言には @民主主義的傾向の復活(第十項) A 基本的人権の確立(同) B平和的傾向を有する責任ある政府の確立(第十二項)が含まれている。同宣言受託は国際法上は世界に対する公約でもある。

草案は保守的な内容

 1945年10月、東久邇内閣を継いだ幣原喜重郎首相は連合国軍最高司令官(GHQ)・マッカーサー元帥に首相就任の挨拶に訪れた。英語の堪能な幣原は元帥と通訳なしで話し合い、米本国の日本占領政策に憲法改正が含まれていることを知り、元帥から準備をするように告げられた。翌日の閣議で幣原は松本蒸治国務相を新憲法制定主務大臣に任命した。翌年2月、出来上がった『松本私案』全文を毎日新聞がすっぱ抜いた。この草案の内容が余りにもお粗末だった。ポツダム宣言やGHQ指令で示された日本民主化、軍部解体、封建制度の廃止などを無視し、明治憲法の字句修正とも言える保守的な内容だった。

 英文翻訳を読んだ元帥は激怒して、日本政府の草案制作の限界を知り、GHQ民生局内の法律家に命じてモデル草案作成を命じた。当時米国は戦時徴兵令で多数の法律学者や弁護士らが占領行政に携わっていた。この時に元帥が基本原則にせよと起草班に示したのがいわゆる『マッカーサー三原則』である。その趣旨は @天皇象徴と主権在民 A紛争解決のための交戦権放棄。上記により不必要の陸海空軍の戦力不保持。 B封建制度に伴う皇族を除く貴族制度の廃止である。

戦争放棄を第一条にと

 戦争放棄条項には国家が本来的に持つ自衛権まで否定する文章があったので、起草委員長のC・チャールス大佐が自ら法律文を書いたと、後日1995年に会見した同氏が私に語った。

 更に驚いたことに、同氏は「出来上がったGHQ草案を読んだ元帥は、戦争放棄と戦力不保持の条項(第九条)を第一条に出来ないか」と言い出した。同氏は「憲法改正は形式的には明治憲法の改正であり、どの国の憲法も国家の体制から始まる」と説得するのが大変だった」と語っていた。元帥がどれほど戦争放棄に執着したかを示すエピソードである。「元帥は生涯を通じて付き合った戦争の悲惨さを思い起こして第一条にしたかったのでしょう」と言うのが同氏の感想である。GHQ草案を元帥の要請で監修した日本通のR・フィン・米ハーバード大法科大学院教授(当時はGHQ民生局員)は「現行憲法にはGHQ草案の90%までが採択されています。私は日本の占領が終われば再改定されると思っていたが、50年後も続いているのは内容に時代を先取りした普遍性があるからでしょう」と話していた。

 紙幅の関係で詳述出来ないのが残念だが、GHQ起草班のほぼ全員がF・ルーズベルト大統領のニューデイール政策を評価する米民主党支持のリベラル派の知識人だったことだ。このため、草案の多くの箇所に米国憲法を上回る進歩的な条文がある。例えば参政権や相続権、教育権などに見られる完全な男女同権、当事者の合意だけで成立する婚姻権、最低の文化的生活を保障される生活権(生活保護法など)。旧憲法にある人生設計を中断される拒否権のない徴兵制度もなくなった。

まだある「言論の自由」

 形の上では間違いなく米国から押し付けられた憲法だが、制定当時の日本にこれだけリベラルな内容の条文を書ける政治家や法学者がいただろうか? そのリベラルな内容の憲法を成立させる政治的、社会的な環境が当時の日本に存在しただろうか? 『松本私案』の一件がそれを証明していないか。

 連日のように新聞やテレビは安倍首相の“介入”の有無を巡る『加計・森友問題』で賑わっている。職業柄、多くの国で取材活動をしたが、時の政治権力者をこれだけ自由に批判できる国はそれほど多くない。独裁国家では考えられないことだ。これも憲法で『言論の自由』が保障されている現行憲法施行下の法治国家である証明である。この「自由と平和」の環境を放棄してはならない。




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国会会期末へ暴走する安倍内閣
「カジノ反対」の世論は明瞭
違法賭博を合法にはできない

竹腰 将弘(ジャーナリスト・山口在住)

 刑法が禁じる賭博場・カジノを合法化するカジノ実施法案は5月22日、衆議院で実質審議入りしました。安倍晋三首相は、どんな無理をしてでも、今国会中の同法成立を図る執念をみせています。

 国民の「カジノ反対」の世論は明瞭です。安倍内閣の民意無視の暴走は許されません。

初の民営賭博解禁

 安倍首相は衆院本会議(同22日)の答弁で、「(カジノは)刑法が賭博を犯罪と規定している趣旨を没却(なくする)するものではなく整合性は図られている」とのべました。天下の暴論です。

 刑法の賭博禁止の下でも特別法で実施されているいくつかの賭博があります。競馬、競輪などの公営賭博です。しかしこれは、公設、公営で、公益を目的とするという極めて限定的な条件で特例として認めているものです。

 カジノは、民間事業者が私的な利潤追求のために賭博場を開設するものです。公営賭博を特例として認める趣旨からさえ大きく逸脱し、刑法の体系と整合性をとることなどできない話です。

 政府は「カジノ単体の解禁」は違法だが、「国際会議場や家族で楽しめるエンターテインメント施設と収益源としてのカジノを併設する」(石井啓一国交相)なら合法だともいいます。

 IRは、国際観光や地域経済活性化、税収や雇用を生むなど経済効果があるから、そこにカジノを置くことは「公益」「新しい公共性」だという論をたてるのです。しかし、これは税金さえ払えば何をやっても「公益」だといっているに等しい議論で、刑法の違法性阻却(取り払う)の要件にならないことは明白です。

 政府や推進派が「カジノではなく統合型リゾート(IR)」という言いかえを繰り返しているのも、「違法な民営賭博の合法化」というこの法案の本質を覆い隠すためのごまかしにすぎません。

 衆院内閣委の質疑(同25日)で自民党議員は「IRは民間の資金でつくり、ランニングコスト(稼働資金)にカジノ収益を充てる」とのべました。推進派は「税金を一円も使わずにできる観光振興策。すべて民間の資金でまかなえる」という能天気な話を繰り返しています。

 日本進出をめざす米国のラスベガス・サンズやMGMなど海外のカジノ資本は、日本のカジノに1兆円程度の投資をいとわないという言明を繰り返しています。カジノ誘致に熱心な大阪府の松井一郎知事は「いまどき1兆円も投資してくれる企業などほかにない」とさもしい発言をしています。

 海外のカジノ資本は日本で慈善事業をやるために投資するわけではありません。

 日本国内にこれまでなかったカジノをつくり、富裕な日本人客から金を巻き上げることができれば、初期の投資など数年でとりかえしたうえ大もうけができると踏んでいるから、巨額の投資話をちらつかせているのです。

 トランプ米大統領の最大の支援者といわれるサンズのシェルドン・アデルソン会長は、アメリカの大手経済紙・フォーブスの今年の世界長者番付で20位に入っています。米国でのカジノ事業がすでに過当競争で収益率の低下にさらされるなか、サンズの利益の8割はマカオやシンガポールなどアジア地域のカジノで得たものになっています。彼らがいま「最後のビッグビジネス」とねらうのが日本進出であり、それに踊らされているのが安倍首相やカジノ推進派なのです。

廃案しかない

 日本共産党の宮本岳志議員は衆院本会議(同22日)で「違法性が高く経済効果もないうえ、カジノ資本が国民を搾取し深刻なギャンブル依存症を増加させる希代の悪法は廃案しかない」と強く求めました。

 「働き方」一括法案と合わせ、国会最終盤へ安倍内閣が駆け込みで成立をねらう悪法にストップをかける声と運動を広げましょう。




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鈴木彰の「モリとカケ喰い終わるまで待ってくれ?」




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「憲法記念日」の新聞を読んで

 昨年のように、安倍首相が読売新聞1面に登場することもなかった。そればかりか、改憲派の産經新聞は「遠のく改憲発議」と大きな横見出しで、国会も動かない、年内発議は絶望的だという。改憲派メディアの熱気はどこに消えたのか。山本・葛西が担当した。

【朝日新聞】

 「憲法を考える」シリーズ企画「揺れる価値@」が1〜2面につづいている。「押しつけではない」「日本らしい」が、独立回復から今に至る改憲論の底流にある感覚だという。そして国家が独自の「物語」を作り始めるとなにが起こるか、明治150年の歴史の教訓から見出そうとしている。慶応大・駒村圭吾さん(憲法学)が語るその「リスク」の指摘は鋭い。

 中面見開きでは、改憲を追求する安倍首相の政権運営を、第2次内閣の発足から5年半の軌跡を振り返っている。国政調査権を妨害し、野党の要求を無視し、解散権を乱用し、集団的自衛権の行使では最高裁判断も解釈変更し、報道の自由に対する威圧が際立つ等々、安倍政権による憲法無視の事実を明らかにしている。

 「改憲を語る資格があるのか」と題した社説では、「この1年で・・・安倍政権の憲法改正を進める土台は崩れた」と断じ、憲法が定める普遍的価値に敬意を払わない「首相の都合ですすめる改憲はもう終わりにする時だ」と結ぶ。識者の声を紹介する「オピニオン」欄は、東京大学・林知更さんと慶應大学・片山杜秀さんのインタビュー記事。社会面では、岩手大、早稲田大、立命館宇治高における憲法を学ぶ教育現場をルポしている。

【毎日新聞】

 1面トップは、「自衛隊明記 賛否割れる」とした自社の世論調査報告。自民改憲案には「反対31%、賛成27%」で「わからない」が29%であることから「改憲に向けた世論の機運が高まっていない」と報じている。3面の「クローズアップ2018」で、安倍政権の憲法論議は「1年前から大きく陰って」おり「先行きは不透明」としている。

 社説は、自民党の改憲案4項目がまとまったが「首相権力の統制が先決だ」と釘を刺す。そして安倍一強の根底には、「選挙の公認権と政党交付金の配分権」の独占と「内閣官房の量的拡大と内閣人事局のにらみ」があるとみる。中面の上智大・宮城太蔵さんと東工大・中島岳志さんの対談では、憲法学者ではない2人から日本とアジアの視野で憲法をとらえ直す視点が提示されている。

 他、懸念や批判が相次ぐ自民党の9条改憲案を多角的に分析する特集や、自衛隊をめぐって司法判断を示さない最高裁、北朝鮮のミサイル発射や不審船に直面している漁業者、草の根で広がり始める憲法論議、また公選法より規制が少ない国民投票法への懸念、参院合区解消・教育無償化を取り上げ、社会面でも紙面の半分を使って憲法関連記事を掲載している。

【東京新聞】

 1面、「9条 世界の宝」との見出しが目を引く憲法特集。「あまり知られていないが、世界各国で・・・憲法9条を支持する宣言や声明が繰り返されてきた」といい、1999年の「ハーグ世界市民平和会議」(オランダ)から昨年の「アジア太平洋法律家協会執行委員会」(ベトナム)まで、さまざまな国際会議で採択された9条の理念を生かす宣言や声明を紹介している。海外での9条への高い評価の背景について、2面でピースボート共同代表の川崎哲さんにインタビューしている。「9条は日本のものという以上に世界のもの」といい切る言葉が力強い。

 「平和主義の『卵』を守れ」と題する社説は、9条に自衛隊を明記しても何も変わらないという安倍改憲案に沿った自民党案は、「国を大きく変質させ・・・およそ平和主義とは相いれない」と本質をつく。社会面の「憲法を見つめて」の第3部「変容する自衛隊」は社説の論調を事実で裏づけていく。1面左下の「平成のことば」は、憲法起草委員の米国人ベアテ・シロタ・ゴードンさんが都内でおこなった講演から次のことばを紹介している。「日本の憲法は米国の憲法より素晴らしい。自分のものより良いものを『押しつける』といいますか」。

【読売新聞】

 昨年の3日に安倍首相の単独インタビューを掲載し、1面を飾った勢いは感じられない。1面に憲法改正に関する大きな記事はなかった。

 3面に「憲法論議 再加速図る」との観測記事を掲載。この中で、自民党は、憲法改正に向けて、自衛隊の根拠規定の明記など4項目の条文案を3月にまとめたが、政府の相次ぐ不祥事に野党が反発し、国会での議論は進んではいないと述べ、条文案作りを主導した細田博之・自民党憲法改正推進本部長が改憲派の集会での発言「厳しい政治状況で各党になかなか議論に乗ってもらえない」と危機感を語ったことを紹介している。

 ある幹部は「デッドラインは参院選前の国会発議になる」と語ったというが、時間的に可能なのか、その分析はない。  左の社説では、「安倍内閣の失速で、改憲の機運は盛り上がりに欠く」と指摘した上で、自衛隊に正当性を付与し、違憲論を払拭する意義は大きい、必要な自衛の措置をとる「実力組織」として、自衛隊の保持を明記する案を打ち出した、と書くが、自衛隊を軍隊と認知する9条改正を「自衛の措置」とねじ曲げて、主張するのは姑息な手段だ。

 中面に自民・公明・立憲民主・希望の4党座談会を掲載したが、共産や社民の主張は聴かれない。読者には支持者もいるはずだが、これでいいのだろうか。

 軟派の面には憲法の記事はなし。改憲の雄、読売新聞の熱意は紙面に感じられない。

【日経新聞】

 1面に世論調査を掲載した。それによると憲法「現状維持」は48%で昨年4月の調査を2ポイント上がり、「改正すべき」は4ポイント下がり41%。昨年4月は賛否が拮抗していたが、今回は改正に慎重な意見が上回ったと報じる。

 社説では、自衛隊明記案が国民投票で否決されても、自衛隊が合憲であるとの立場に変わりはない、というならわざわざ国民投票をする必要があるのかと疑義を呈する。課題の多い国民投票法を実務的な修正作業を通して、与野党間の信頼を醸成することが先だと解く。

 8面に、曽我部真裕・京大教授らの「私が考える憲法」を特集した。その中で、歌手の新井ひとみさんは、「私はこのままでいいのではないかと考えます。憲法に書いてあることと違う部分があるならば、一度そこに目を向けて、世の中を直してから憲法を考えればよい」と語っている。

 9面には、自衛隊の明記などで与野党が対立する論点を分かりやすく解説をした。改憲に深入りを避ける慎重な紙面展開になっている。

【産経新聞】

 際だったのは産経新聞だ。「遠のく改憲発議」と大きな横見だしを取り、今年3月の党大会で、9条での自衛隊明記などの条文素案を発表したが、2月に憲法審査会を開いたきりで、国会は動かない。もはや年内発議は絶望的となり、本格論議は参院選後、発議は32年夏の東京五輪以降にずれ込む公算が大きいという。加えて4月末に天皇陛下の譲位、5月1日の皇太子の即位・改元に伴う国家的行事も相次ぎ、改憲発議どころか、国会の憲法論議さえ難しいと指摘する。

 首相が信用できない、が世論の多数。参院選で自公が勝てる保証はないなかで、20議席も落とせば、改憲論議は崩壊する。

 さらに1面で、阿比留解説委員が、「自民党をはじめとする国会の不作為でその時機(発議)を失うことがあれば、悔やんでも悔やみきれない」。と改憲派メディアの行間から悲鳴が聞こえる。

 社説にかわる主張では、例年通り、9条では国民守れない、だから自衛隊を明記せよ、と中国や北朝鮮の動向を例に、自衛隊が国民を守る戦いに従事する可能性は否定できない、と煽る。皮肉にも産経新聞を読んで、9条の会が、改憲の防波堤になっていることがよく分かった。




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太郎の部屋のほっとたいむ 64

前進座が黙阿弥の散切喜劇を上演

鈴木太郎(詩人・演劇ライター 中新井在住)

 ざんぎり頭をたたいてみれば文明開化の音がする… とうたわれたように、明治時代の初めに進められたのが散切り頭。ちょんまげを切った新しい風俗を盛り込んだ歌舞伎が散切物。今回、前進座国立劇場五月公演は「人間万事金世中」(にんげんばんじかねのよのなか)は、河竹黙阿弥が明治12年に書き上げた翻案劇。原作はイギリスの戯曲「マネー(金)」(リットン・作)。前進座では初演。喜劇タッチで、娯楽性があり楽しめる作品。演出は小野文隆。

 横浜堺町の船積問屋。港から積み出す荷を造る店先で、主人の辺見勢左衛門(藤川矢之輔)と親類の雅羅田臼右衛門(益城宏)と金儲けの話に余念がない。そこへ集金から帰ってきた恵府林之助(河原崎國太郎)。林之助は伯父勢左衛門のもとで下男扱いされているが、乳母おしず(早瀬栄之助)の身を案じている。林之助が勢左衛門の妻おらん(山崎辰之助)や娘おしな(玉浦有之祐)に借金を申し込むが断れてしまう。

 ところが、長崎の伯父の死去にともなって大金の遺産が林之助のもとに届くことになる。金を手にした途端に勢左衛門たちの態度が豹変する。このあたりの矢之輔の演技が見所、妻、娘と三人そろっての金の亡者ぶりに笑いが起こる。國太郎の立役も心地好く映る。おしずの姪おくらの忠村臣弥の娘役もいい。有之祐との対比も鮮明。

 一幕三場、二幕五場の構成。うまくいきそうでいかないのが人生そのもの。お金をめぐって騙し騙される展開が用意されていて飽きることがない。
=平河町・国立劇場大劇場、5月17日所見=




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コ一ヒーブレイク

《地方紙》

 こちらに定住してから、地方紙の信濃毎日新聞を読んでいます。

 井出孫六著『抵抗の新聞人 桐生悠々』(岩波新書)には、この新聞社は明治6年に創立されてから、錚々たる主筆が「筆政」をはって歴史を築いてきたとあります。

 特に山路愛山という主筆は「社説のほかに信州に埋もれた史実の発掘を精力的に行い、あわせて伊達騒動記、高山彦九郎、大塩平八郎など反官的な独特の史眼によって水準以上の連載を続け、県民に絶大な刺激を与えた」そうです。愛山に記者魂を揺さぶられた各部の記者もそれぞれに力のこもった探訪記事を寄せ、たとえば束松露香記者による《俳諧寺一茶》は、一茶を「通俗詩人から芭蕉、蕪村と並ぶ存在に引き上げる役割をさえ果たした」とありました。

 毎朝届けられる新聞には、一面下段、左隅に“けさの一句”という187文字分の囲みがあります。俳人、土肥あき子さんの選んだ俳句とその解説です。ある日、取り上げられた句を理解できないまま解説を読み、大きな衝撃を受けました。掲句はグラスの中で凍ってしまった水を見つめています。そこから、敗戦で送られたシベリアでの悲惨な生活を読み取っていたのです。その時、香月泰男さんの絵、シベリアシリーズを思い出しました。ほとんど黒で描かれた画面、見開かれた瞳、鉄条網のシルエット…。

 回を追うたびに解説者の教養の深さに驚かされます。古典文学・神話・おとぎばなしなどは洋の東西を問わず、また動・植物をはじめ気象、天体、海洋、医学、教育、歴史、政治等々に通じ、その日にふさわしい句を見つけ出すのも大変な仕事と思うのに、著名な俳人から無名(その道の人はご存知か)の同人まで、“けさ”提供すべき一句を抜き出して、少ない字数できちんと裏付けをした解説をしています。

 40頁もある新聞のたった187文字ですら、桐生悠々を主筆に招聘した地方新聞社の面目躍如? 読みでのある新聞です。
原 緑




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紹 介

映画「米軍が最も怖れた男 その名はカメジロー」の上映会

 占領下の沖縄で、米軍の圧政と闘った男の生き様を、貴重な映像で描くドキュメンタリー映画。

日 時:6月30日(土) 18:30〜20:30
会 場:所沢市民文化センター・マーキーホール
入場料:前売 一般1,000円 当日 一般1,200円
主 催:映画「米軍が最も怖れた男 その名はカメジロー」上映実行委員会
連絡先:池 090-8840-2858  渡辺 080-3849-9027




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事務局から

 緑風が吹きわたる気持ちのよい季節となりました。

▼総会へご参加を
 1面の案内、同封のチラシをご覧ください。前号で7月初めと予告しましたが、6月29日に変更して「総会」を行います。オズプレイが配備される横田基地の現状と今後について、高橋美枝子さんに講演していただきます。周りの方に声をかけ、多くのみなさんが参加されるよう訴えます。
▼「安倍9条改憲NO!」署名650筆に
 「3000万」署名を呼びかける全国市民アクションは、5月31日の第3次集約に向けて、24〜30日「全国一斉街宣・署名週間」を呼びかけました。世話人会で検討し、会として28〜30日の3日間、新所沢駅頭で署名に取り組みました。また、「所沢9条連絡会」は1月から毎月第3金曜日所沢駅で「共同宣伝」を行ってきました。これらで集めた署名と会員のみなさんから寄せられた署名は、650筆になりました。全国的な集約数が近日発表されますが、「改憲発議」させないために、引き続き署名の取り組みが呼びかけられると思われます。
▼6月3日、北浦和で「オール埼玉15000人総行動」
 「立憲主義を取り戻す!戦争させない!9条こわすな!」を掲げて10時半から北浦和公園で行われます。ご参加ください。
▼「平和のための戦争展」
 8月11〜13日に行われ、私たちの会も参加します。スタッフとしてご協力いただける方は持丸(2924ー5608)まで。




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