機関紙153号 (2019年6月5日発行)



もくじ

代替わり狂騒の裏側で 隠された改憲のたくらみ
  梅田 正己(歴史研究者)

鈴木 彰の「元号に託した夢は幻か?」

マスコミ ウォッチング
  憲法9条 新聞6紙はどう伝えたか 5月3日「憲法記念日」
   朝日
   毎日
   読売
   日経
   産経
   東京

所沢通信基地への土砂搬入に抗議の声を!
  松本 進(所沢基地問題を考える会)

リレーエッセイ
  土地っ子として 生きる
    石田 道男

川 柳

【本の紹介】
  尾崎孝史 著『未 和 NHK記者はなぜ過労死したのか』

懐かしい風景 所沢ところどころ
  寿町(銀座通り)にある秋田家住宅

事務局から





代替わり狂騒の裏側で 隠された改憲のたくらみ

梅田 正己(歴史研究者)

〈「憲法を守り」が令和で「のっとり」に〉
 今年5月3日の「朝日川柳」のトップにあった牧和男さんの作である。お気づきのように、30年前の前天皇の「即位後朝見の儀」での「おことば」では「日本国憲法を守り」とあったのが、今回の新天皇の第一声では「憲法にのっとり」と変わったのをとらえた川柳である。

 この「即位後朝見の儀」は天皇の「国事行為」として「内閣の助言と承認により」(憲法7条)行われた。当然、「おことば」も閣議決定を経ている。だから先の牧さんの作に続く岩井廣安さんの川柳もこう詠んでいた。
〈検閲が済んだ「おことば」我ら聴く〉

 この天皇の「即位宣言」に対して安倍首相が述べた「国民代表の辞」にはこんな言葉が散見された。

 「ここに英邁なる天皇陛下から」「日本国憲法にのっとり」「国民統合の象徴として仰ぎ」「誇りある日本の輝かしい未来、人々が美しく心を寄せ合う中で」「令和の御代(みよ)の平安と、皇室の弥栄(いやさか)をお祈り申し上げます」

 弥栄(ますます栄える)などという言葉は初めて聞く若い人が多かったのではないだろうか。戦前は天皇をたたえる際の慣用語だった。「万歳!」の代わりに「弥栄、弥栄、弥栄!」と叫んだりしたのである。

 安倍首相の「悲願」は改憲である。今年の憲法記念日でも「2020年までの改憲の実現」を公言している。だから「英邁なる天皇陛下」に「憲法を守る」と言われてはまずかったのである。

 「のっとり」は漢字では「則り」と書くが、また「乗っ取り」とも書ける。「憲法にのっとり」とした背景には「憲法乗っ取り」の意図が隠されていたと読んでも、あながち的外れとは言えないのではないか。

 あまり報道されていないが、今回の代替わりを前に、政府は4月2日、全国の学校や地方公共団体に対し、国旗掲揚を促すことを閣議決定した。文部科学省はそれを受け、全国の教育委員会に国旗掲揚を通達した。

 国旗国歌をめぐって東京、大阪をはじめ各地の入学式や卒業式でどれほど大量の「目に見えぬ流血」があったか、心ある人にはわかっているはずである。

 その上さらに自民党改憲草案は、現行の日の丸・君が代を単に国旗国歌とすると規定しただけの「国旗国歌法」に、「国民の尊重義務」すなわち強制条項を付け加えている。

 今回の代替わりではメディアを挙げて狂騒曲に舞い踊ったが、その裏ではひそかに改憲の手が打たれていたのである。
        (『日本ナショナリズムの歴史』著者)




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鈴木彰の「元号に託した夢は幻か?」




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マスコミ ウォッチング

憲法9条 新聞6紙はどう伝えたか 5月3日「憲法記念日」

 例年同様、5月3日「憲法記念日」の新聞6紙を「憲法9条をどう伝えたか」という視点で読んでみた。葛西建治、原田勤、山本達夫が担当した。

朝 日

 1面は世論調査の概要。安倍改憲に対し、改憲機運「高まっていない」72%、9条「変えない方がよい」64%が有権者の多数と報じ中面で詳述。社説は、改憲に意欲をみせる安倍首相を「改憲ありきのご都合主義」とし、「豊かな憲法論議は、主権者である国民が主導」するべきと主張。憲法学者・樋口陽一さんのインタビュ?記事では、安倍改憲は9条の平和原則を失うおそれがあり、論自体「政治的な主張」とは呼べずフェイク(虚偽)だと断じる。法哲学者・井上達夫さんは改憲・護憲双方への苦言を呈するが、持論の「9条削除論」には何故か触れていない。「天声人語」はさいたま市の9条俳句訴訟を取り上げ、「声」欄は憲法関連に特化している。

毎 日

 「9条改憲」と「象徴天皇」の2点に集約された世論調査。安倍政権下での改憲に「反対」48%が「賛成」31%を上まわり、自衛隊明記に「賛成」27%、「反対」28%、「わからない」32%と割れた結果に。「安倍改憲なお霧中」とし、夏の参院選の結果次第で改憲戦略の変更や改憲派の再編もあると読む。社説では、憲法審査会の停滞は「野党の硬直した態度」と「筋道を軽んじる首相の姿勢」といい、憲法論議でいま必要なのは9条より安倍一強が常態化している国会の復権という。社会面は、マッカーサーに9条を提案したとされる幣原喜重郎元首相の9条への思いを託した掛け軸が発見された記事。憲法記念日の各党の談話が埋め草のように扱われている。

読 売

 1面に世論調査を掲載。3段見出しで「象徴天皇『維持を』78%、憲法議論『活発に』65%」。本文で9条に自衛隊の書き込み案は「賛成」47%、「反対」46%でほぼ並んだと紹介している。調査の詳報は6、7面の見開き。「憲法議論促す声 改正 賛否は僅差」と議論の進展に期待をかけている。社説では、「令和の国家像を描く議論を」と呼びかけ、9条改正が中心課題だと断言する。2面では「改憲論議打開なるか 自民、草の根啓発に力」と運動の方向性を示す。4面で改憲自民の下村博文本部長に参院選で「改憲主張を徹底する」と語らせている。13面には9条改憲反対の全面意見広告も。

日 経

 社説に「より幅広い憲法論議を丁寧に」と掲げた。改憲派の「改憲しない限り戦後は終わらない」との言い回しは、憲法を書き換えれば国民生活が急によくなるわけでもあるまいと指摘。また護憲派にありがちな「9条に指一本触れさせない」との態度は孤立の道とも述べ双方を戒めて丁寧な議論を期待している。憲法特集は8、9面の見開き。「新時代の憲法、論点多彩」と大見出しを打った。「緊急事態条項 災害時に備え」では、この条項がはらむ危険性も指摘している。しかし「9条 自衛隊明記に賛否」では、政権が進めてきた安全保障関連法の一連の経過の列記にとどまり論点の多彩さを失っている。

産 経

 5面に安倍首相インタビューを掲載。自衛隊明記案について、「多くの政党が自衛隊を合憲と認めている。命を賭して任務を遂行する自衛隊を憲法上明文化し、違憲論争に終止符を打つのは政治の役割」と従来の主張を繰り返している。同紙面の「憲法改正 自民の本気度は」では、「推進本部は・・・時間をかけて国民の改憲機運を高める戦略に切り替えた。だが、自民党自身が熱気に欠けている」と嘆く。社説は今年も憲法に自衛隊明記を力説。平和憲法を金科玉条とする勢力の存在が安全保障に関する国民教育の妨げになっている。9条2項を削除し、軍の保持を認めることが9条改正のゴール。その前段として自衛隊明記の意義があると主張。まさに産経らしい。

東 京

 1面に「令和初の憲法記念日」と題して、自民党が4項目の改憲条文案をまとめて以降、憲法審査会で1回も議論が行われていない要因は、改憲を性急に進める首相の姿勢が静かに議論する環境を失わせ、与野党協調の上に成り立つ憲法議論の土台を壊していると指摘した。元衆院憲法調査会長の中山太郎氏はインタビューで、「2000年に設置された憲法調査会は、共産党を含む護憲派の参加も得て、濃密な調査を行い報告書をまとめた。憲法はいかなる政党が政権についても守るべきルールを定めた国の基本法だから、与党も野党もない。幅広い政党の参加で、少数意見を十分に尊重して議論を尽くすことに心がけた」と語っている。今の政権にそれが欠けているのだ。




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所沢通信基地への土砂搬入に抗議の声を!

松本 進(所沢基地問題を考える会)

 所沢通信基地内の東西道路建設(2019年開通予定)に伴い、米軍の局舎の移転新築工事、同時に通信アンテナ新規更新・新設工事が始まり、大型重機やダンプの出入りがはじまりました。住民の不安の声が広がり、昨年5月並木地区と中新井地区の住民有志の呼びかけで、「所沢基地問題を考える会」が発足、所沢市基地対策室にお願いし、「出前講座」を開催しました。当日は130名を超える住民が参加し、関心の高さが分かりました。並木団地住民の私は、ヘリコプター夜間訓練の観測結果を報告し、「毎月複数の夜間訓練飛行が行われ、今年に入りますます回数が増えている。この騒音の激しさと低空飛行に不安と危険を感じる」米軍へ中止申し入れを市対策室に要請しました。

 そんな矢先の昨年7月、オスプレイが所沢市に飛来し、通信基地内に着陸、多くの市民の度肝を抜く事件となりました。そしてさらに、今回(2019年4月)、寝耳に水の横田基地の土砂の所沢基地内への搬入廃棄の始まりです。

 いったいどうなっているのでしょうか。並木地区の団地は基地フェンスに面していて、西風が吹けば、団地中に安全かどうか不確かな土砂が舞い、北風になれば、保育園や学校の子どもたちの健康に大きな影響が出ることは確実です。子どもたちの健康や未来のためにも、通信基地への土砂の搬入中止、基地の全面返還を強く求めます。みなさん、基地ゲート前の抗議と搬入中止のスタンディングに参加しましょう。




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リレーエッセイ

土地っ子として 生きる 

石田 道男

 ことしの4月で、いよいよ90歳になった。いわゆる「卒寿」だ。家族から、お祝いとして群馬への「旅行」や「食事会」をしてもらった。

 また、88歳からの懸案だった「私の記録」。あちこちで書いたものやしゃべったことを、実行委員会まで作って一冊にまとめた『土地っ子として 生きる』が昨年末に出版された。実行委員の皆さんの大変なご苦労に、心から感謝を申し上げたい。

 そればかりでなく、その「はしがき」の中で、小学校からの友人・山田昭次君(立教大学名誉教授)が「戦争中から戦後までの長い歴史の中で、たどってきた生き方を回顧した極めてユニークな自叙伝である」とまで、言ってくれたことも大変嬉しいことだった。

 いま思えば、十五年戦争の申し子だった軍国少年から、新憲法発布で「人権、民主、自由」の九条を守ることを知った少年から青年時代への飛躍。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アメリカ軍隊の占領、サンフランシスコ条約、日米安保の下での地位協定による所沢基地返還の願い、市民運動の広がり、さまざまな時代の一つひとつの事柄が、映画のように浮かびあがってくる。

 私の今日までの生きざまの中に、多くの友人たち、苦しいとき、必ず手を差しのべてくれた人たち、励まして心から支えてくれた人びとの力を忘れない。これからもすべての人びとと共に前を向いてしっかり歩いていきたい。




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川 柳

合い言葉偽造捏造安倍晋三
(武蔵坊)




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【本の紹介】

尾崎孝史 著『未 和 NHK記者はなぜ過労死したのか』

 4年余り伏せていた自社の記者佐戸未和さん(当時31)の過労死をNHKが突然報道したのは2017年10月。これを機にフリーランスの尾崎孝史さんが遺族とともに事実を掘り起こした。百人を超す証言に裏打ちされた未和さんの一人称でつづる記録は生き生きとしている。業務用携帯電話を握ったまま自宅マンションで亡くなっている未和さんが婚約者に発見されるくだりでは涙を禁じ得ない。

 都庁記者クラブに所属、13年の都議選に続いて行われた参院選を終えた4日後に遺体で発見される。取材にNHK幹部や記者の口は重い。「過労死の情報を誰かが止めているのではないか」。父親の守さんは自分でも娘の元同僚記者らに問い合わせをしている。NHKに要請した取材協力を管理職が断りに来た。18年10月の話だ。

 事実関係にこだわる理由を守さんは「不思議なことがあるからだ」と管理職に話す。未和さんは13年7月24日未明に帰宅、この日の午後東京都の局長と次長に約束した挨拶回りをすっぽかし、25日夜に亡くなっているのが発見されている。24日に、すっぽかされた局長・次長側はNHK記者クラブに未和さんの所在を尋ねなかったか。これがはっきりしないのが不思議だと話した。

 後日、両親は死亡日が25日の可能性もあったことを知る。死体検案書の〈24日頃〉が25日だとすると、未明に帰宅した24日は。母親の恵美子さんが声をあげた。「え!そのとき、未和は生きていたかも知れないんですか!」。問い合わせを受けて誰かが部屋に駆けつけ、泥のように眠る娘を揺り起こしてくれていたら。

 働き方改革と同時に、本書がNHKに与えた課題は大きい。 (原田 勤)




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懐かしい風景 所沢ところどころ

画・大山茂樹

寿町(銀座通り)にある秋田家住宅

(屋号・井筒屋、綿糸商、明治後期の建物)




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事務局から

◆憲法施行から72年目の5月3日、有明で「平和といのちと人権を!」を掲げ「憲法集会」が開催されました(2面に写真掲載)。昨年を上回る6.5万人が参加。来年2020年に新憲法施行をもくろむ安倍首相に「NO」を突きつけました。
◆1面でお知らせしているように、6月23日に「総会」を行います。憲法を争点に衆参同日選もささやかれるなか、私たちの会として、これから1年どんな取り組みを強めていくか、議論したいと思います。ぜひご参加ください。
◆新しくなった「会報」について、さまざまなご意見をいただきました。今号では、本文使用活字、紙の厚さなどを改善しました。引き続き紙面の充実・改善をはかっていきます。投稿やご意見をお寄せください。




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