機関紙156号 (2019年9月5日発行)
岩崎 貞明 (メディア総合研究所)
「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」の実行委員の一人として、私はその企画・運営にかかわっています。この展示は、2015年1月に東京・練馬で開催された「表現の不自由展」をベースにしたもので、この「不自由展」を観覧したジャーナリストの津田大介氏が、トリエンナーレの芸術監督に就任して続編の開催を考え、当時のスタッフである私たちに協力を要請してきたのです。私たちは、実現困難を予想しながらも、津田氏に協力することにしました。
出展作品については、私たち実行委員と津田氏とが協議して選定しました。「平和の少女像」をめぐっても議論して、結果的に実物大とミニチュアの二つを展示することで合意しました。この点は、津田氏からトリエンナーレの実行委員会会長である大村秀章愛知県知事にも開会前に伝えられています。知事の見解は「金は出すが口は出さない」というもので、行政権力が表現内容に立ち入らないという英断だと理解しました。
私たちは、抗議や妨害工作も想定して、トリエンナーレの事務局側に対策を提案していました。しかしトリエンナーレが開会するや、抗議電話やメール等が殺到し、事務局がマヒ状態になりました。私たちは電話対応人員の増員などを求めましたが「困難」と退けられました。電話やファックスの中にはテロ予告や脅迫とみられるものもありましたが、行政の対応は必ずしも迅速ではなかったと思います。
河村たかし名古屋市長はトリエンナーレ実行委員会のメンバーであるのに、「少女像」撤去を求める要請を8月2日に出しました。憲法が禁じる検閲に相当する行為に対し、大村知事も津田氏もすぐに反論しませんでした。結果的に、津田氏は知事との合意として、8月3日での展示中止を、私たち「不自由展」実行委員会に対し一方的に通告しました。私たちはこれを受け入れないと表明し、再開に向けた協議を申し入れていますが、展示会場には「壁」が立てられ、一般客の立ち入りを拒んでいます。
「不自由展」中止には、各地での抗議集会やネット署名などで多くの市民が反対し、トリエンナーレに参加している他の作家たちも連名で、展示再開を求める声明を出しています。抗議に屈して平和的な展示をやめてしまうことは禍根を残します。私たちはあくまで展示再開を求めています。
「表現の不自由展・その後」実行委員会
あいちトリエンナーレ2019、国内外の参加アーティスト72名
日本ペンクラブ
日本劇作家協会
日本美術会
日本漫画家協会
日本YWCA
「女性・戦争・人権」学会
日本文化政策学会
日本消費者連盟
日本ジャーナリスト会議
日本出版者協議会
日本マスコミ文化情報労組会議
「九条俳句」弁護団・市民応援団
愛知大学関係者有志 など
小野寺 昭 (日朝協会代表理事)
安倍政権が8月2日の閣議で、韓国に対する貿易上の優遇措置除外を、8月28日から実施することを決めました。この決定について安倍政権は、安全保障上の措置だといっていますが具体的な理由は明らかにしていません。
このためこの決定は、昨年10月の日本企業に元徴用工への賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決や、韓国国内にある該当企業の資産を売却してその費用にあてると決めたことへの報復措置だといわれています。
安倍政権の韓国に対する優遇措置除外の対応には、韓国では官民あげて猛反発しています。日韓の自治体や市民同士の交流も各地で中止され、韓国国内では日本製品の不買運動まで起きています。これまで両国の市民同士が長年交流して培ってきた信頼関係が、いま崩れようとしています。その声は、「反日」というより「反安倍」へと強まっているようです。
* *日本の植民地として長い間、苦しんできた韓国は、戦後74年たった今でも底流に日本に対する「恨(はん)の精神=痛恨、悲哀、無念さなどを指し朝鮮における思想の根幹」が受け継がれているといわれています。
安倍政権による今回の措置は、こうした隣国にたいする配慮を欠いた、愚かな外交といわざるをえません。北東アジアの平和を考えるとき、日本と隣国の韓国との友好関係は欠かせません。
安倍政権は長期化して正常な感覚が失われ、独断と偏見が横行する内閣に変貌したようにみえます。その一端が、駐日韓国大使が河野外相を訪問した時に、河野外相が大使の発言を遮り、「極めて無礼」だと声高に叱責する場面がテレビで放映されました。隣国の大使に、このような居丈高な発言をする外務大臣が存在するのは、恥ずかしい限りです。 * *8月15日、日本による植民地支配からの解放を祝う「光復節」で、文在寅大統領は「日本が対話と協力の道に出れば、われわれは喜んで手をつなぐ」と呼びかけました。日本の将来に大きな禍根を残すことのないよう、安倍政権は文在寅政権と話し合って解決の道を模索し、日韓の正常な関係を再構築しなければなりません。
九条の会 (2019・7・29)
参院選を経て、安倍改憲をめぐる情勢は新たな局面に入りました。2017年5月3日の改憲提言以来、自民党は衆参両院における改憲勢力3分の2という状況に乗じて改憲を強行しようとさまざまな策動を繰り返してきましたが、その後2年にわたり市民の運動とそれを背にした野党の頑張りによって改憲発議はおろか改憲案の憲法審査会への提示すらできませんでした。そして迎えた参院選において、改憲勢力は発議に必要な3分の2を維持することに失敗したのです。
3分の2を阻止した直接の要因は、市民と野党の共闘が、「安倍政権による改憲」反対、安保法制廃止をはじめ13の共通政策を掲げて32の一人区全てで共闘し、奮闘したことです。また、安倍9条改憲NO!全国市民アクション、九条の会が、3000万署名を掲げ戸別訪問や駅頭、大学門前でのスタンディングなど草の根からの運動を粘り強く続けることで、安倍改憲に反対する国民世論を形成・拡大する上で大きな役割を果たしたことも明らかです。
しかし、安倍首相は任期中の改憲をあきらめていません。それどころか首相は、直後の記者会見において「(改憲論議については)少なくとも議論すべきだという国民の審判は下った」と述べて改憲発議に邁進する意欲を公言しています。これは、安倍首相一流のウソを本当のように言うもので、参院選の期間中もその後も、「安倍政権下での改憲」に反対の世論は多数を占め、改憲勢力が3分の2をとれなかったことこそが真実です。
ところが、安倍首相は、自民党案にこだわらないと強調することで、野党の取り込みをはかり3分の2の回復を目指すなど、あらゆる形で改憲強行をはかろうとしています。
安倍9条改憲を急がせる圧力も増大しています。アメリカは、イランとの核合意から一方的に離脱し挑発を繰り返した結果、中東地域での戦争の危険が高まっています。トランプ政権はイランとの軍事対決をはかるべく有志連合をよびかけ、日本に対しても参加の圧力を加えています。こうしたアメリカの戦争への武力による加担こそ、安倍政権が安保法制を強行した目的であり、そして安倍9条改憲のねらいにほかなりません。辺野古新基地建設への固執、常軌を逸したイージスアショア配備強行の動きも9条破壊の先取りです。
6年半を越える安倍政治への不信とあきらめから、投票率が50%を割る事態が生まれています。この民主主義の危機を克服し再生するためにも、市民一人一人の草の根からの決起が求められています。参院選で3分の2を阻んだ市民の運動に確信をもち、安倍9条改憲NO!の3000万署名をさらに推進し、広範な人々と共同して草の根から、9条改憲の危険性を訴える宣伝と対話の活動を強めましょう。
中原 道夫 (会代表委員)
カーテンを開けると
吹き込んでくる爽やかな風
けれど、閉ざされたカーテンの陰で
交わされた密約は少しも
姿を見せない
二千万人に及ぶ殺戮を行い
三百十万人の命を失った悲しい国が
その密約で再び進軍ラッパを
鳴らそうとしているのだ
(国民の命と財産を守るため)と
見え透いた嘘をもっともらしく言わせるのも密約
(沖縄県民に寄り添う)と言いながら
透明な海に土砂を撒き散らすのも密約
一九九五年、十二歳の女子小学生を
拉致強姦した米海兵隊の兵士三名の身柄は
日本側に引き渡されることはなかった
二〇〇四年、沖縄国際大学に墜落した
ヘリの事件も全容の解明はなされなかった
四十五年間で米軍機の墜落は四十七件
殺人、強盗、放火、強姦の凶悪犯罪は
なんと、その数五百七十六件
密約による海外派兵も行われた
「自衛隊は米軍の指揮下に入る」
密約は憲法よりも優先されるのだ
「ふざけるな!」
ぼくは爽やかな風を求めて
カーテンを開け、窓を開ける
すると何ということだろう
あのオスプレイが轟音高く
眼の前を、ぼくの街を、飛んでいるのだ
(詩誌「詩人会議」8月号より
浅川 光一 (北秋津在住)
私は「NHKを監視・激励する会」の会員です。テレビをよく見ます。いい番組を見たとき、また、ひどい報道だなと思ったとき、ノートにメモをして、できるだけ早くNHK(0570-066-066)や民放に電話しています。マスメディアに対して「敏感にならないと愚民政策に惑わされてしまう」と思うからです。ノートの一部を紹介します。
6・2 午前8時〜「小さな旅」大山千枚田。カメラ、インタビュー、編集全般大変優れています。さすがNHKです。民放ではできない良さです。制作にあたったスタッフのみなさんに感謝しています、と伝えてください。
6・12 麻生財務相が「金融審議会」のいわゆる「2000万円不足」問題の報告書を受け取らないと表明したことについて、テレビ朝日のようにズバリ批判してほしい。NHKは「政府寄り」の感を強くします。
7・21 参院選の投票箱が閉まった直後の20時15分に当選が発表されました。世論調査や情報収集にかけた努力は評価します。しかし、そんなことに力を入れるのではなく、各党の主張を正確に伝え、何が争点であるかを明確にし、有権者に判断材料を提供してもらいたい。それが公共放送の役割ではないでしょうか。一考を要します。
7・29 B S1の「カノンー家族のしらべー」はすばらしい番組だった。6年にわたる取材に驚かされました。午前0時からの放送だったが、もっと多くの人が見られる時間帯にしてもらいたい。
植竹しげ子 (琉球舞踊家・清瀬市在住)
8月16日に先祖の霊をお墓に送り届け、ふるさと茨城の実家からわが家にもどると、4日間も留守にしたのでポストに便りやお知らせがたまっていた。その中でとりわけ目についたのが「清瀬市議会だより」である。
「辺野古新基地建設の即時中止と普天間基地の県外・国外移転について国民的議論により、民主主義及び憲法に基づき公正に解決するべき…意見書の採択を求める」陳情が可決され、何件かの議案の結果が一覧表に〇印がついているではないか。人づてには聞いていたものの、市議会だよりを目にし気をよくして、翌日に控えたイベントの準備をしながら、昨年11月「マスコミ・文化 九条の会 所沢」主催の「文化のつどい」に参加してくれた議員Y氏たちのがんばりに思いを馳せた。
帰省する前に、衣装ケースから着物やら小道具を取り出しておいたので、忘れ物がないか再度確認しながら、スーツケースに詰め込んだ。今回のイベントでは、めずらしく琉球舞踊の男踊りで「上り口説」という演目を主催者側から所望された。
昔、沖縄が琉球王国だったころ、王府の役人が薩摩に出張するにあたり、旅の道中を舞踊化したもので2本の扇子を操りながら踊るこの踊りは私の体になじんだものであり、気が引きしまる思いがした。
1609年に薩摩が侵攻しなかったら、この踊りを始め、私が好む古典舞踊はこの世に存在しなかったわけである。そんなことが頭をよぎり、いささか複雑な気持ちでスーツケースのチャックをしめて明日に備えた。
原田みき子 (沖縄県本部町在住)
今朝も7時過ぎにメールが届く。「アッ、今日もあるな」一瞬緊張が走る。塩川港のたたかいが始まって2年が過ぎた。病人やケガ人が続出する過酷なたたかいである。私も所属する「本部町島ぐるみ会議」のメンバーが中心で、朝6時から仲間が監視して、辺野古への土砂搬出作業があると判断するとメールをくれる。遠方から駆けつける仲間と合わせても20人くらい。対して国側は、防衛局の職員、機動隊員、民間の警備員、業者の職員合わせて200名が居ならぶ。広い港の半分をフェンスとネットで仕切って市民を排除する。誰でも自由に入れる県の港が、完全に国に占拠されている。市民は土砂を積んだダンプカーが入ってくるたびに、頭を下げて「違法工事に協力しないでください」とお願いする。7月、8名の警備員がネットを持って走ってきて、私はパクリと捕獲された。このとき警備員の足にからまって転倒し、したたか右半身を打った。ほんとうに危ない帝国警備会社である。
沖縄選出の伊波洋一参議院議員から国会活動報告が届いた。「日本政府はグアム・アンダーセン北部地区に米海兵隊オスプレイ基地を建設していて、普天間所属部隊の移転が米国方針であり、辺野古新基地は必要ない」と明記してあった。伊波議員は外交防衛委員会に所属し、4月と5月の委員会の報告内容であった。日本政府は3500億円も支出している。それでも政府が「普天間の危険性を除去するために辺野古が唯一」と言い続けるのはなぜか。見えてくるのは、政府首脳にとって辺野古の工事はあまい蜜だから。警備員の日当が9万円。土砂の値段も9倍と言われる。大成建設を筆頭に業者は現首脳に近い会社ばかり。国民の血税を湯水のように使って、反対する市民の命を削り、貴重な亜熱帯の自然を破壊し、強大な軍事基地建設を進める。これを止められない現状に歯ぎしりする思いだが、「会報」前号で山本達夫氏が指摘しているように、安倍政権の支持率は落ちている。希望はある。
桂 壮三郎 (映画製作者・小手指在住)
安倍首相の「森友・加計学園」の政治的私物化を追及する、東京新聞記者・望月衣塑子のノンフィクション『新聞記者』(角川新書) から着想を得て製作された映画「新聞記者」が上映されている。安倍政権のもとで進行している官邸の暗部を描いた政治的サスペンス映画として6月公開以来異例のヒットを続けている。なぜ、この映画を見に多くの人が劇場に駆け付けるのか。それは安倍強権政治の裏側に何が潜んでいるのかを国民は知りたがっているのだと思う。その象徴が、国民のためと言いながら現政権を守る「内閣情報調査室(内調)」の存在だろう。映画は、大学新設にかかわる情報を操作し極秘文書の真相を隠蔽する内調の若き官僚の苦悩と、その真相を懸命に追及する新聞記者(日本人の父と韓国人の母をもつ女性記者)の格闘、重くのしかかる現実とのたたかいの中で人間としての生き方を問う作品である。
この映画のプロデューサーは、この映画の狙いを次のように語っている。「政治に興味を持たないことは民主主義を放棄することです。日本人は自ら民主主義を勝ち得たわけではなく、あの太平洋戦争での多くの屍の上になし得た民主主義です。その民主主義を放棄してはならない」と。映画はSNSを通した口コミによって若い人が見ているようだ。若い人が政治の現状を認識する、いい機会だと思う。余談だが、キャスティングについて、ひとこと。女性新聞記者は日本の女優に交渉が行われたが内容が政権批判のために出演を断られたとの一部情報が流れたが、真相は違っていた。最初から韓国の女優(シム・ウンギョン)さんを念頭に役の設定がされていたとのこと。「徴用工」問題もあり、現在の日韓関係を考えるいいキャステングだと思う。久しぶりに大人が鑑賞できる日本映画が誕生した。
ドリンクはCとDとで違う税 (武蔵坊)
◆日本国憲法をもつこの国で「検閲」が行われ、「表現の自由」が脅かされる異常事態が進行しています。「表現の不自由展」実行委員の岩崎貞明さんに緊急のお願いをし、1面に寄稿していただきました。再開を求め、声をあげていきたいと思います。
◆「徴用工」問題を契機に、日韓関係が悪化の一途をたどっています。次回の「憲法カフェ」はこの問題を取り上げます。前号で10月予定とお伝えしましたが、11月に変更します。
◆「戦争展」の参加者は600名。私たちの会は日米地位協定をテーマに展示、横田空域の立体模型(埼玉平和委)が好評でした。
◆7月21日の参院選結果を踏まえ私たちはこれからどうたたかっていくのか、2面の「九条の会」声明をお読みください。