機関紙160号 (2020年1月20日発行)
切り絵:市川 實
緑ゆたかな三ヶ島、小洒落たロッジ風住宅が白木蓮を従えて建っていた。
広いベランダの下はカーポート、スポーツカーが出番を待っていた。
佐藤 俊廣(事務局長)
明けましておめでとうございます。
臨時国会が閉会した昨年12月9日、安倍首相は「必ずや私の手で改憲を成し遂げたい。通常国会で改憲原案の策定を加速したい」と記者会見でのべました。「桜を見る会」で政治の私物化を追及され崖っぷちにありながら、なお改憲に執念を燃やしています。しかし、「安倍」支持・不支持逆転の世論調査も出ています。ウソとごまかし、隠ぺい、忖度…、官僚も含めて日本の政治の劣化は眼をおおうばかりです。最長であっても「最低、最悪」の安倍首相に、多くの犠牲の上につくられた「憲法9条」改憲の野望を遂げさせるわけにはいきません。
昨年の2つのことが忘れられません。長崎・広島を訪れたローマ教皇は、「核戦争の脅威で威嚇することに頼りながら、平和を提案できるか」と核抑止力論を痛烈に批判し、核廃絶を訴えました。アフガニスタンで銃撃され亡くなった中村哲さんは、戦争の根源に貧困があるとし、井戸を掘り水路をつくり、乾いた大地を水でうるおし、農業を営むことができる活動をつづけました。「兵器ではなく いのちの水を」。それは憲法9条を体現した活動であり、日本の進むべき道をしめしています。
節目となる2020年。安倍首相を退陣に追い込み、憲法9条をまもり生かす運動が大きく前進するよう、ともに力を合わせていきたいと思います。
李 相眞(一橋大学3年.韓国からの留学生.23歳.男性)
李さんは、一橋大学に2015年度入学(2017年3月から18年11月末まで兵役で休学)。19年から加藤圭木准教授のゼミに所属している。加藤さんは昨年11月、「マスコミ・文化 九条の会 所沢」の憲法カフェ「日韓関係を考える」で講演した。
最近、日韓関係は冷え込んでいる。「徴用工」問題から始まった日韓の葛藤はますます激化しており、韓国では日本商品の不買運動まで起こっている。今、日本で留学している韓国人は「境界人」になりつつある。
私は6歳の時に父親の仕事で1年間日本に住んだことがある。その時、保育園に通いながら楽しい時間を過ごしたため、日本・日本人への好意的なイメージを抱いていた。ところが、韓国に戻って12年間の学校教育(特に、韓国史の授業)を受けながら、私が抱いていた好意的なイメージに疑問符が付いた。韓国史の教科書では日本の植民地統治に関する記述の分量が35年間の短い時間であったことにしては多い。日本が行った非人道的な侵略は日本で生活したことがある私にとってさらに身近な出来事として迫ってきたのであり、私を混乱させた。
混乱を抱いている中、親から日本の大学に留学することはどうかと聞かれた。韓国教育の画一性に幻滅を覚えたこともあるだろうが、振り返ってみると混乱の中でも残っていた日本への好感が日本留学を決心することに影響を及ぼしたと思う。結局、私は一橋大学に合格した。
しかし、大学生活が順調だったわけではない。日本人の学生と親しくなることが難しく、常に距離感を感じた。この距離感は、私の中の混乱がまだ解消されていないのに「自分らしさ」を捨て日本人に合わせようとしたためだと思う。留学生活に適応できなかった私にとって加藤圭木先生のゼミは「自分らしさ」を維持できる場であった。
三・一独立運動の様子を描写したレリーフ
加藤ゼミでは主に植民地朝鮮および朝鮮半島の歴史について学び学問的な発見も多いが、自分が抱いている混乱を解消していく場でもある。加藤ゼミの日本人学生も同じく混乱を抱いている。ゼミ生の話を聞いてみると、共通的にその前までは植民地朝鮮についてあまり深く考えてこなかったが、何らかのきっかけで植民地統治の非人道的な面をみて問題意識を感じたという。彼らが経験してきた学校教育やメディアでは日本の植民地統治をめぐる「負の側面」を隠し、ただの歴史的な出来事として扱っている。しかし、何らかのきっかけで出会った植民地朝鮮は、自分たちが生きている日本という国によって考えられないほど踏みにじられたのである。この事実に向かい合うことはかなり大変なことであると思う。
加藤ゼミではそれらの事実に正面から向かい合い、日本人そして韓国人が持っている混乱を互いに共有し理解することを通じ、その混乱を解消している。互いを理解しあうことによって、心の隔てを取り払って近づくことができたのであり、私は「境界人」ではなく「懸け橋」になりつつあると思う。
日韓関係においても同様なことが言える。今の葛藤も根本的には「慰安婦」問題や「徴用工」問題などに対する認識のずれから始まったのである。つまり、日韓関係を改善するためには歴史認識のずれを縮める必要がある。そのためには、韓国側は無条件的に日本を批判するのではなく、日本の現状を理解し韓国の歴史認識を効果的に伝える方法を模索するべきだ。
その一方で、日本側はなぜ韓国で「反日」とも思われるようなことが起こっているか直視する姿勢を持つ必要がある。歴史問題がただの出来事ではなく、我々が生きている社会の土台をつくっていることを記憶してほしい。両国の国民が共通した歴史認識を共有してからこそ真の友好へつながるのではないか、と実感しつつある日々である。
歴史認識を共有するとは、日本が朝鮮を侵略したこと、それによって朝鮮人が被害を受けたこと、またその被害が今でも続いていることを両国民が同じく認知するということだと思う。日本によって朝鮮の近代化が進められたと言えるかもしれないが、その前に朝鮮人が深刻な被害を受けたことを認めるべきだ。それを基本的な前提条件として共有してからこそ日韓関係が改善されると考える。
滝沢 明(緑町在住)
〈誰かがドアをたたいている。こんな朝早くなんてはじめてだ。日はまだ昇っていない。外は茶色だ。そんなに強くたたくのはやめてくれ。いま行くから〉平野 俊子(北岩岡在住)
アベ政権のやりたい放題はいつまで許されるのか? 支持する人たちとは? 株価が下がらないことが支持の理由なら、今自分が良ければ将来の日本がどうなるかに関心を持たないということか?
戦後に生まれた私たちは大戦で命を奪われた日本国内外の方たちの犠牲の上に立ち「生まれた時から世界の平和を築く鍵、憲法9条を持って生まれた」ということをどう考え生きてきたのか? 自己中心的考え方を2020年は棄て日本にしかできない世界平和への道を目指さないと間に合わなくなる大切な年だと思う。アメリカの言いなりというような無能な政治家の後を、「ハーメルンの笛吹男」に騙されねずみの代わりに命を落とした子供たちのようについて行くのだろうか? 大戦で犠牲になった方がたの無念の死を無駄にすることは許されることではない。繰り返すことが人の歴史というのなら、私たちは地球に人間が存在する意味から考え直す年に入ったのだと思う。
中嶋 里美(中新井在住)
1975年、「国際婦人年」の9月、私は市川房枝・田中寿美子参議院議員や「行動を起す女たちの会」の仲間とNHK会長室にいた。
その頃の女子アナウンサーの役割は、男性アナの話にうなずいたり、天気予報を伝えるくらいだった。こんな差別的な扱いはやめてほしいなど30項目近い要望をつきつけた。
昨年12月、小手指公民館で行われた「遺伝子組み換え食品って何?」の話し合いでも市民の意識の高さを感じた。「学校給食で有機野菜を使ってほしい」と市議が議会で質問したところ、市長は「予算がない」と答えたそうだ。私たちの体は食べ物で作られている。子どもたちが健康に生きるためにも市長と話す必要がある。多くの人と出会う市民運動の中にこそ新しい時代が育まれている。そこに参加するためにも、私は健康づくりに励みたい。
新 冬二(下富在住)
メーン競技場となる巨大な新国立競技場が完成して着々と準備が進んでいる東京オリンピックですが、それが幻となった「1940年」のことを考えます。同時に開催される予定の万国博覧会も中止されました。父親が前売りされた入場券を買ってきて自慢そうに見せたことを、小学生だった私は憶えています。
いわゆる皇紀2600年を記念してのさまざまな祝賀行事が行われましたが、日独伊三国同盟の調印、大政翼賛会の発足と、日本が戦争へ突き進むことを確実にした年であったように思います。
それから80年、万国博覧会が予定された会場は晴海でしたが、そこは今回の選手村の場所です。聖火リレーがその4年前のナチ政権下のベルリン大会が最初だったことなどを考えると、2020年が(もう始まっているかもしれませんが)のちに世界の何度目かの?暗い時代の始まりの年であったと振り返ることがないように願っています。
山田 守男(花園在住・しんとこ九条の会)
まず思いつく言葉が三つあります。
@ 憲法9条。「私たちだけでなく、世界中の人が戦争の悲惨さを反省し、『過ちは繰り返さない』という決意を戦後真っ先に全世界に向けて表明したのが日本国憲法です。この憲法の特に第9条を改めてかみしめ、その持つ大きな意味を皆のものにしていこう」(2013戦争展「しんとこ九条の会」作成パンフレット)との呼びかけを思い起しながら、会の活動を続けていきたいと思います。具体的には、改憲発議させないこと。「核も戦争もない世界に」を掲げる「戦争展」の成功。「核禁止条約を批准」する国に!
A 人権。ジェンダー平等、多様性の尊重を更に学び、深めて、ヘイトスピーチを許さない、人間の尊厳を何よりも大切にする社会の実現を!
B 平和。世界各国との真の友好と親善の発展、とりわけ日韓関係では、「植民地朝鮮の人びとが被った心理的・肉体的犠牲の大きさ」に思いを致し、その反省の上に立った真の友好関係の発展を願っています。
藤原 絢子(山口在住)
今朝、ツイッターで長渕剛が熱く語るのを見た。戦争が近づいている気がする、自衛隊員や青少年に銃を持たせたくない、と。
先日は、太田光が安倍首相との対談で、アべご都合主義の非人間性を暴き出していた。
置かれた立場で、出来ることはする。自分にとって不利益であっても、あえて声を上げる。そんな姿をテレビなどでも見聞きすることが多くなった。
さて、自分は何をやってきたか、自分に何ができるのかと考えたときに、うろたえてしまう。人に影響を与える力もないし、街頭宣伝に参加する勇気もない。
朝起きると、まず新聞を読む。ツイッターを開く。山口二郎、孫崎亨などが、近々の政治情勢を語っているのを拾い読みする。
そして、寝る前には山本太郎の全国ツアーライブを見る。
自称、政治音痴の私が、政治づいているのは、アベのおかげかもしれない。
政党支持の話は仲間内以外ではなかなかできないものだが、「山本太郎の追っかけをやってる。」とミーハー気取りで、あっちこっちで言いふらしている。これなら、私にできることであった。
行木 恒雄(山口在住)
今年こそ長期独裁を続けてきた安倍政権を退陣させましょう。総選挙の可能性が極めて高いだけに、安倍首相に引導を渡すチャンスです。
安倍首相は「桜疑惑」から説明せず逃亡、今また国交省・内閣府の前副大臣の秋元司自民党衆院議員がカジノ誘致がらみの収賄容疑で逮捕されるという異常事態です。秋元議員はカジノを含む統合型リゾート(IR)の担当で、参入計画している中国企業から300万円を受け取ったという。さらに自民党の白須賀貴樹衆院議員の地元事務所も家宅捜索されました。
越年した「桜疑惑」に、カジノ汚職の追い打ちは安倍政権にとって痛打です。総選挙は今春ではなく、東京五輪・パラリンピック終了後、9月以降との見方が強まっています。
ところで、安倍内閣の支持率が減ったとはいえ、なお根強い支持層を抱えています。これに代わる「野党政権」の姿が見えないからです。野党が結束して「野党連合政権」の政策協議に取り組むよう期待します。
藤村 元(松ヶ丘在住)
今年は安倍政権を倒したい。これが一番の目標です。倒し方については随分はっきりしてきた。「市民と野党の共闘」をしっかり発展させることです。しかし、それだけでは足りない。この数十年、左翼(もう死語に近いが)勢力は自民党から絶えず分断される攻撃を受けてきた。それを「市民と野党の共闘」ははね返す地点に到達している。
安倍政権はいくつものデタラメさが露呈しているにもかかわらず、その支持率は31年前に宮沢政権が9%に、また「神の国」発言の森内閣が8%になったのに比べれば、はるかに高い支持率を維持している。
自民党・権力が、あるいは世の権力者がとってきた政治手法に学ばなければならない。普通につきあっている人が、熱烈な安倍ファンだと言うと、思わず引いてしまう、あるいは、そもそも周りにそんな人はいない、とおっしゃるかもしれない。それでは、安倍は潰れない。
今年は、自民党をずーっと支持してきた人とつき合って、よく話を聞いて、共通した悩みを抱えて生きていることがわかればいいと思う。でも、けっして分断しようという気持を持ってはいけない。その方も人間である。おたがいをリスペクトすることだと思う。
畑中 繁(牛沼在住)
「桜を見る会」には唖然とした。安倍首相は「ていねいに説明する」と言いながら、予算委員会を開催させず、臨時国会を閉会した。一方、今年2020年に、何が何でも憲法「改正」のため突っ走ろうとしている。
私は日本国民救援会・所沢支部の事務局長をつとめているが、「戦争は最大の人権侵害である」をスローガンに、他の団体と一緒に改憲に反対し活動している。
毎年8月の「平和のための戦争展」に出展し、戦争がいかに人権を侵害するか中高生に訴えている。昨年は「13歳の少女が茶わんいじほうで拷問」というタイトルのチラシをつくって配布した。その内容は、「治安維持法」を知らず「茶わんいじほう」と語っていた少女が働いていた製糸工場の寄宿舎での私物検査で起きた出来事。与謝野晶子の歌集『みだれ髪』のなかの「君死にたもうなかれ」の一節に赤線を引いていたことが「特高」の眼に止まり、警察に呼び出され拷問されたというものである。
今年も、少女と同年代の中高生、若い人たちに、「戦争をする国」にしてはならないと訴えていきたい。
白澤 道子(和ヶ原在住)
ねずみは、大黒天のお使いとされ、神話のなかでは大国主命の危機を救う大切な役割を担っています。
日常生活では、害をなすものとして嫌われていますが、実は、予知能力に優れており、子孫繁栄や家運隆盛など、人の生活に幸せや豊かさをもたらす開運の象徴とされてきたのです。
昨年は、台風や地震など大きな自然災害が相次ぎ、たくさんの人びとが生活を奪われました。政治の世界でも、権力の私物化や資料の隠蔽など政治家のおごりに呆れるニュースが多く、令和への改元も素直に喜べない年でした。
今年は、七赤金星(しちせききんせい)と庚子(かのえね)が重なる180年に一度というめでたい年といわれています。
平和がおびやかされることのないように、力を合わせて戦争をしないと宣言した憲法9条をまもり、人にも自然にもおだやかな年になりますよう、心から希っています。
植竹しげ子(清瀬市在住)
昨年11月中頃、稽古場に自衛隊のレンジャー部隊に所属していた、元自衛隊員の講演会のチラシがはってあった。ちょっとしたきっかけで、機会があったら直接彼に聞いたみたいことがあり、必ず参加しようと思っていた。
井筒氏に聞いてみたいと思っていたのは、11月のはじめにこんなことがあったからだ。都内のある身障者施設で、文化イベントがあり、東京見物を兼ねてイベント出演するため、沖縄の離島から、3〜5名が上京した際、少しばかりお手伝いをした。ハプニングはあったものの無事終了し、K氏だけが残り、出演した面々はそれなりの満足感を持って沖縄へ帰った。
イベントの次の日、宿泊したI氏宅でK氏が「私の知り合いには家族が自衛隊の人が結構いるですよ」と言う。あまり産業のない離島ゆえ、さもありなんと思いつつ聞いた。さらに「自衛隊で事故や戦闘で命を落とした家族に3億円が補償されているんですって、3億円もらえるなら私はいいわという人もいるんですよ。私は絶対いやだと言ったのよ」とK氏。この話を聞いて咄嗟にフェイクニュースではと頭をよぎった。しかし、その時フェイクニュースだと断定できる確信もなく「へぇーそうなの。沖縄は命どう宝ではなくなってきてるの」と私。以前、琉球新報の東京支局にいた滝本氏がフェイクニュースを突き止めた記事を読んでいたこともあり、なんとしても真実を知りたいと思っていた矢先だったので、稽古場のチラシが眼に留まったわけである。
講演会当日、映像機器の点検などで忙しいにもかかわらず、私のために時間をつくって下さった。わずかしかない時間なので、いきなり、隊員の死亡時の補償のことを聞いた。「それは6000万です。そう制定されています。どんなことがあっても1億を超えることはありません」と井筒氏は答えてくれた。一般の隊員とは違う、死と隣り合わせの厳しい訓練を行うレンジャー部隊にいた井筒氏の答えは信じるに能うものとして聞いた。フェイクニュースとも知らず、日々の暮らしを営んでいる人々に井筒氏の言葉を何らかの方法で伝えたい。
河野 慎二(ジャーナリスト)
著者は、2015年4月から4年間のメディアと安倍政権の動きを、報道内容を中心に辿って見すえ、どうすればよいのかを、読者と共に考えようと本書をまとめた。
この時期、驕り高ぶった安倍政権は安全保障関連法(戦争法)の成立をはじめ、森友・加計問題での文書改ざんや隠蔽など、悪政をほしいままにした。
著者の疑問は、09年に自民党を下野させた有権者が、なぜ「呆れるほど従順」になったのかという点だ。
疑問を解くカギはメディアの劣化にある。新聞に対する消費税軽減税率適用がメディア劣化の一因と指摘。新聞協会は政権への陳情(オネダリ)を重ね、軽減税率の適用を手に入れた。
「借りを返せ」と恫喝された新聞界の対応が無残。「消費税の報道は絶望の極み。オネダリの見返りとしてのプロパガンダを報道とは呼ばない」と、大手紙の報道を痛烈に批判する。
劣化は新聞だけではない。雑誌ジャーナリズムも、反権力・反拝金の姿勢が攻撃される中で劣化し、このままでは「確実に滅びる。新聞も、単行本も」と警鐘を鳴らす。
その上で「知性の灯を絶やすな」として「オール出版界による『ノンフィクション再生プロジェクト』の立ち上げ」を提唱する。
著者は、ジャーナリズムは滅んではならないと強調する。ジャーナリズムが機能しなければ、民主主義は成立しないからだ。「ペンは剣よりも強し」は市民の主権者意識があってこそ成り立つ。
最終ページに森友文書改ざんをスクープした朝日の写真を掲載している。ジャーナリズムを滅ぼしてはならないという信念と気概が伝わってくる。
忍足まつ枝(小手指町在住)
昭和5(1930)年、私は東京・向島で乾物屋の長女として生まれました。女学生になったころ、戦争が激しくなり、毎日のように出征兵士を送り、近所には女と子どもばかりが残されました。女学校では授業らしい授業がなくなり、体育の時間では長いなぎなたを振り回し、工場に学徒動員されるようになり、私は軍服などを縫っていました。各地で空襲が激しくなり、毎晩、服を着たまま寝ていました。
3月9日は寒い日でした。夜、警戒警報が鳴り「空襲だ」の声に外へ出ると、B29の焼夷弾投下によって家が焼け、火は燃えひろがり、空は真っ赤になっていました。母からおねえちゃんの位牌だけは持って逃げろと言われていましたので、それを鞄に入れ、親のように慕っていた隣の忍足かずさん(夫・忍足欣四郎の母)の家にいる重度の障害者をどうしても助けたくて、夏蒲団にぐるぐる巻きにして引っ張り、かずさんと3人で逃げました。父が「四ツ木の土手で待っているよ」と言っていたので、私たちは土手をめざしましたが、地面は熱く、船曳川に沿って歩きました。しかし、ついに歩けなくなり3階建てのビルで一夜を過ごし、何とか生き延びました。北に向かって逃げ助かりましたが、南のほうに逃げた人はみんな死にました。押上川に浮かぶ死体がいまでも眼に焼き付いています。
その東京大空襲によって死者は10万人にのぼりました。本所高女は地元の生徒が多く、5クラスの3分の2が空襲で死にました。田舎に疎開していて助かったものの、両親が戦災で死に孤児になった人も多くいました。
こんな経験はもうたくさんです。戦争は絶対してはいけません。私はいま90歳ですが、生きている限り、この体験を伝えていきたいと思っています。
森 智広
記憶みだれ 身動きままならぬ
ぼくの父が 皺まみれの手を拳に
画像の奥を見据えてるんだ
「美しい国」語るすまし顔の
大きな画面の真ん中に
焼夷弾が焼き尽した命の
沖縄の 広島の 長崎の 命の
戦地で見捨てられた命の
慰安婦のひきしぼる涙の
七三一が切り刻んだ命の
戦争に踏みにじられた命たちの乱打
「くりかえすな!」
の 太いテロップ
涌井 季美子
初春やまったり行こか夫婦して
羽子板の響くカンコンいつまでも
河村 フクエ
大股に一歩踏み込む今朝の春
ためらわず真っ直ぐ生きる青木の美鈴木 武甫
ふるさとの味したたかに雑煮食む
九条が希望つらぬく去年今年
浜田 萌子
(九条の会コンサートにて)
天満敦子ストラディバリの音色に九条守る決意高まる
来日のローマ教皇被爆地に立ちて発信核廃絶を
茶畑に点々と置く白き布見れば蜘蛛の巣朝露を乗せ
矢島 勇
口惜しき従属深める地位協定アメに濡れても袖さえ振れず
国奪い奴隷のごとく貶めていまに認めぬ国の先行き
辱め受けし女性の人権を詫びることなくデマと言う国
原田みき子(沖縄県本部町在住)
12月21日、東村高江で6人の市民が「正当な理由なく訓練場に侵入した」という刑特法違反容疑で逮捕された。これまでは、この種の件は1泊2日かせいぜい2泊3日程度で釈放されていたが、今回は1月1日まで勾留される見通しだ。当初、裁判所は「勾留の必要性がない」としていたのに、検察は準抗告まで行い、結局、裁判所は10日間の勾留状を発布した。これに対して弁護団は裁判所の判断が違法であるとして争う構えだ。市民グループも、毎日、那覇署と沖縄署に集まって励ましの集会を開いている。
正月が来るというのにかくも厳しい市民弾圧に怒りがおさまらない。6名全員よく知る仲間で、女性のひとりは初めて高江に行ったはずだ。「高江の森を見てみたい」ぐらいの好奇心で行動を共にしたのではないか。そもそも政府は「高江のヘリパッドは完成」と発表し政府高官が来沖して盛大な祝賀パーティを開いた。いまだに改修工事をつづけている訳で国民騙しにも程がある。世界遺産登録がならないのも、この米軍訓練場のせいで、沖縄県民にとって迷惑この上ない。基地はやんばるの森に存在し、境界線もよく分からない。住民でも誤って入ってしまいかねない。
辺野古問題では粘り強い市民の運動が実って、埋立量は全体の1.5%程度だ。この数字に官邸は慌てているのではないか。何かと言えば「辺野古が唯一。順調に工事は進んでいる」と発表してきたのに、1年経って、埋立は1.5%しか進んでいない。この調子だと、あと70年はかかる。まして大浦湾の軟弱地盤と活断層問題は解決不能と識者は指摘する。官邸の焦りが市民運動弾圧に表われているような気がする。
今日の地元紙には「辺野古で使われる土砂は県内産出分で十分」という防衛局発表が載った。工事の障壁となり得る県外土砂規制条例を免れる狙いなのか? 本部町島ぐるみ会議も加入する「辺野古土砂搬出反対全国協」の広くて深い運動が功を奏しているのか。また、突然「大浦湾に手を付けず辺野古側にヘリパッドを造る」という話も出てきた。官邸は追いつめられているようだ。
桂 壮三郎(映画製作者)
「上級国民」という言葉があるらしい。山口敬之元TBSワシントン支局長から性暴力を受けた伊藤詩織さんが損害賠償を東京地検に求め勝訴したレイプ事件があった。敗訴した山口氏の会見がテレビで大きく報道された際に、会見場の司会者が、山口氏は上級国民なので安倍総理や菅官房長官へ助けを求めるのか、という質問が飛び出した。国民を上級、下級に分ける安倍政権下の世相の愚かさに愕然とした。
さて、わが国の映画支援政策のあり方をめぐる事件を報告したい。安倍政権の延命に力を尽くす官僚の巣窟ともいえる内閣府の闇を描いた「新聞記者」は、本年度のベスト映画として高く評価された。それを制作したプロダクションの新作映画「宮本から君へ」が2019年度芸術文化振興助成金交付内定を取り消され、映画関係者や芸術・文化分野では驚きをもって受け止められている。出演者の一人ピエール瀧氏が麻薬取締法違反で逮捕され、それを理由に芸術文化振興会(芸文振)が内定を取り消したからだ。芸文振は、これを合理化するため事後に、助成金要綱に「公益性の観点から交付内定が不適当と認められる場合は内定を取消すことができる」と書き加えた。この事案は訴訟によって新たな展開が始まる。
1990年2月、民間と政府による資金拠出を原資に「芸術文化振興基金」が発足した。すべての国民が芸術文化に親しみ自らの手で新しい文化を創造するための環境の醸成と基盤強化を図る目的からだ。今回の交付内定取消しは、この30年間の芸術文化振興基金の理念を放棄するに等しい。芸文振は今からでも交付内定取消しを撤回し、プロダクションへ製作助成金を支払うべきだ。
◆今号は2月号を合併し8頁建てでお届けします。1面に市川實さんに素敵な切り絵を、特集「2020年に思う」にたくさんの方から原稿、写真・絵手紙・カットを寄せていただきました。
◆所沢・9条連絡会では、安倍9条改憲を許さないため、この1年のたたかいが重要と考え、毎月19日、駅頭で共同行動を取り組むことにしました。1月は新秋津駅、2月は西所沢駅で、15〜16時に行います。ご参加ください。
◆「年会費・カンパ」をお願いしています。世話人と接するこの機会に、会の取り組みなどについてご意見をお寄せください。
◆2月8日の「新春のつどい」では、安保法制後、自衛隊はどう変貌したかなど、長年、自衛隊・米軍を取材してきた佐藤つよしさんに報告してもらいます。ぜひ、ご参加ください。