機関紙19号 (2006年11月29日発行)



もくじ
教育基本法改悪を阻止し、戦争のない世の中に
会員・読者の懇談会を開催
九条に確信、七千人が集う
「宣戦の詔書」を知っていますか
私は、私にできることをし続けたい
「核持ち込み」の恐れ…非核三原則堅持の再確認を 1
拉致問題を重点的にと、NHKに放送命令

教育基本法改悪を阻止し、戦争のない世の中に

新井あずみ (子どもたちの未来と教育を考える会)

 安倍首相は「美しい国へ」の中で自らを「戦う政治家」と言っていますが、これは日本を率先して戦争する国に作り変える政治家という事です。戦争の出来る国にするには「戦争の放棄」を掲げている日本国憲法と、「教え子を戦場送るな」と身体を張って戦争協力を拒否する労働者が邪魔なのです。ですから自民党は、「日教組、自治労を壊滅できるかどうかが次の参院選の争点」(森喜朗元首相)や、「デモで騒音まき散らす教員は免許剥奪だ」(中川昭自民党政調会長)などの発言に見られるように労働者を、しかもかつては戦争協力機関であった学校や役所に勤める労働者を、政府の意のままに動き余計なことは詮索しない人形に作り変えようとしているのです。

 昨年10月23日、東京都教育委員会は「入学式・卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」という通達を出し、教職員に国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること、国歌斉唱に際してピアノ伴奏をすることを強制してきました。しかも「この通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は服務上の責任を間われる」と罰則までついています。現行教育基本法は「教育は不当な支配に服することなく」(第10条教育行政)と、教育への政府の介入を禁じていますから東京都の通達は違法ですし、通達に法的拘束力はありません。にもかかわらず、立たなかった先生方、ピアノ伴奏を拒否した先生方には処分が下されました。先生方は都教委と国を相手取って予防訴訟を起こし、今年の9月21日に勝訴しました。

 「原告ら教職員は、思想・良心の自由に基づき、入学式、卒式等の式典において国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを拒否する自由、ピアノ伴奏をすることを拒否する自由を有している。違法な本件通達に基づく各校長の職務命令に基づき、上記行為を行う義務はないものと解するのが相当である」というのが判決理由の抜粋ですが、「本件通達」を司法が違法と認めたのは、先生方が処分を恐れず闘いを貫いたからです。闘ってこそ、展望が切り拓けるのです。これは先生方の闘いだけではありません。当初、教育基本法改悪案は十月末には通るだろうと言われていましたが、採決を今日まで引き延ばし、しかも単独審議による強行採決という形でしか議決できない程に安倍政権を追いんだのは、先生方の闘いと結びついた私たち市民の闘いの成果です。一ヶ月にもわたる先生方の国会前リレー.ハンガーストラキ、それに共感した労働者、学生、市民の座り込みとシュブレコール、「とめよう、教育基本法改悪!全国連絡会」のよびかけによる毎週の国会前ミニ集会など様々な形で道行く人や議員に訴てきたことが、多くの人々の心を動かし、多くの人々がそれぞれのやり方で改悪反対に起ち上がったからです。運動が広まったから、政府もそう簡単に改悪を強行できなくなったのです。

共闘の輪を広げましょう

 さて、「教育基本法改悪反対運動のこれから」ですが、与党自民党がこれまでの慣例を破って、衆議院での与党単独採決の強行という恥も外聞も無いやり方で「戦争の出来る国」づくりに向けて舵を切ったからには、私たちもこれまで以上に幅広くさらに共闘の輪を広げてしっかりとスクラムを組んで対抗していかねば戦争を止めることは出来ないと思われます。しかも政府与党は「強行採決とは云うな」と報道規制までしてきたのです。国民に事実を隠蔽したまま政府の都合の良い様に事を進めるやりかたは、自民党が用意した質問を文部科学省が教育委員会に依頼して「サクラ」を使って「やらせ質問」までして世論誘導をした.教育基本法案のタウンミーティングの汚いやり方と同じ手法です。.なりふり構わない汚いやり方で、政府は教育基本法改悪に乗り出して来ています。いままでは教育基本法改悪反対の一点のみで共闘戦線が組まれて来ましたが、これからは共謀罪設立反対、改憲(特に九条改悪)反対、防衛「省」昇格法案反対、国民投票法案反対、少年法改悪反対などを闘ってきた諸団体とも共闘して、大きな統一戦線をつくっていく必要があると思います。これら全ての運動が戦争協力を拒否するものだからです。私達戦争に反対する側も、過激だなんだと言ってないで、戦争を止める為に、悪法の一つ一つを皆で跡形もなく潰して行く姿勢を持たないと闘いにならない、そんな状況に突入したと思います。

共闘の力に確信を

 教育基本法改悪案成立をここまで延ばし、安倍政権を追い詰めて来たのは、教育基本法改悪反対の一点を共有し、方法論や党派の壁などを乗り超えて共に闘い抜いて来た私達市民と教育労働者の共闘の力です。ここに確信を持って、今度は戦争と労働者潰しに反対の一点で共闘し、安倍政権を倒し、戦争のない世界をこの手に掴みましょう。

 私達が生きる為に、そして子孫が平和な世界で生きていけるように、改憲阻止・戦争廃絶に向けて一緒にがんばりましょう!教育基本法改悪を阻止し、戦争のない世の中への道を切り拓きましょう。

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会員・読者の懇談会を開催

 11月12日夜、「会」は、ミューズ四階会議室で、会員サロンと言うことで、気楽な意見交換の場として、初の会員・読者の懇談会を開いた。

 日本茶、紅茶、コーヒーが好きに飲めるだけでなく、「山川」や「はんかく」が用意されるなど粋な心遣いがされている中、原世話人が「ちょっと人数は少ないのですが」と言いつつ開会を宣し、自己紹介となった。参加者は20人余だが各地域から少なからぬ期待を持っての参加とあって、柔らかい雰囲気の中に、会に寄せる期待がにじんでいる。

 佐藤事務長は「この例会を今後も続けていきたい。現在、会報は1500部印刷し、会員に足で配るほか、これまでの集会に参加された方、市長、市議、団体、労働組合にきちんと配るほか、街頭宣伝にも使っている。早急に会員数が500を超え1000人を目指すよう努力をしたい。12月5日には、市内の九条の会と手を携え、小森陽一さんの講演とナターシャさんの音楽の集いを成功させ、2月には、『蟻の兵隊』の上映会。4月にも大きな集会を企画している」と報告した。

 話しは勢い、当面の焦点、タウンミーティングの「やらせ質問」で、政府・文部科学省への批判が噴出するなかでの教育基本法についての国会審議に関心が寄せられる。山口から参加した持丸さんは「採決が迫っている。連日、集会が入り、市内の先生方も必死に動いている。先週には、廃案目指して2400名が国会を取り巻いたが、新聞には報道されない。マスコミはどうなっているのか。特別委員会の議員に抗議のファクスを送ろう」と呼びかけた。同じ山口の塚崎さんは、「『美しい』とか、あんなものは床屋談義だ。そんなものを基本に教育基本法を変えていいのか。サッチャーの教育改革がいかにひどい内容かは、9月20日のエコノミストが特集している。イギリスでは今、校長のなり手が無いという。同じ間違いをしてはならない」と語った。

 久米に住む岡本さんは、「今何をやることが大事か、詰めた話をしたい」と話し、下富の片田さんは、「印刷業をやっていたが廃業に追い込まれた、九条を守る運動を広げる為にもっといろんなことを知りたい」と熱心な問題提起をした。

 終わりはいろんな思いを込め、司会者の原さんが井上ひさしさんの「子共たちに伝える日本国憲法」を朗読した。朗読は改めて憲法九条とわかりやすい日本語があることを参加者の心に残すものとなった。事務局では、例会を継続して開くことを決めた。

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鈴木彰の「いぶかしくそして怪しきゼロみっつ」

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九条に確信、七千人が集う

ピースフェスタ in ヒロシマ 連帯した運動が力を発揮

太田武男 (広島マスコミ九条の会事務局)

 九条二項「戦力放棄」の思想的原点『ヒロシマ』、その心意気を総結集しよう--憲法公布60年の11月3日、広島県立総合体育館に7000人(実行委発表)が参加した「ピースフェスタin ヒロシマ」(憲法九条一万人の集い)は、『九条の会』を中心に市民の連帯が力を発揮した広島での画期的集会となった。

県内40の九条の会が結束

「人の多さにびっくりした。こんなに多く九条に関心を持って集まったとは…」。集会で聞いた感想は、改憲を巡るメディア情報との余りの格差に、批判とも戸惑いとも聞こえる参加者の声だった。この日までに県内「九条の会」が50団体近くにまで広がったことが何より嬉しい。

 フェスタは、第一部・地元ミュージシャンのコンサートで開幕、第二部は保育園児ら250人による『願い』の歌声でオープニング、松元ヒロのコント、池田香代子さんや小田実さんの講演、早苗ネネ、タケカワユキヒデのライブ、フォトジャーナリスト久保田弘信さんの「イラク報告」、参加者全員の「イマジン大合唱」と、正午から午後4時半まで多彩なプログラムに笑いと歌声、拍手が続く一体感あふれる内容だった。さすがに当日夕方の民放ニュース、翌日の新聞は大きく報じた。

 弁護士・マスコミ・宗教者の「九条の会」代表4人が呼びかけ、県内約40の「九条の会」を中心に実行委員会が発足したのは4月末だった。「憲法九条の優れた価値を広げ、実現するための第一歩にする」と「集会目的」を申し合わせ、1.幅広い市民の参加 2.「九条の会」や市民一人ひとりが、自分たちのできる方法で呼びかける 3.地域、職場で憲法を学ぶ大小集全を開き、新たな「九条の会」結成を目指す--方針を確認してスタート。緩やかでおおらかな方針のためか、当初は動きも鈍く心配した。実行委事務所が開設され、ホームページが立ち上がり、プログラムやチラシ最終案が出来たのは9月も半ばを過ぎていた。

微力だが無力ではない

 これが自主的な市民運動の真骨頂かもしれない。その間に「申し合わせ」どおり、憲法ミニ講座が各地で開かれ、『九条の会はつかいち結成一周年集会』、JCJ広島支部の『9・2不戦のつどい』など独自集会を、それぞれ「フェスタ.プレ集会」と位置づける取り組みが各組織で進んだ。福山、三原、呉では市単位に、また損保、女性、うたごえ、医療など各分野でフェスタを目標に「九条の会」が相次ぎ誕生した。女性九条の会は行動的だった。「9の曰」に街頭でチラシを配り、終盤には実行委団体も合流した。

 地元民放ラジオにスポットを一週間、地元紙には半五段広告を2回、実行委が大金かけて大胆なPR作戦。Tシャツやワッペンも生まれ、遠隔地からは貸し切りバスで繰り出す計画が進んだ。

 集会当曰までに配ったチラシは約13万枚、千円の入場券は一万三千枚配布された。それでも「九条への熱い思いが実った」--そんな手応えを得たのは入場者で席が埋まり始めた開会直前でしかなかった。

 集会で小田さんは「憲法は今こそ旬」と語り、池田さんは「私たちは微力ではあるが、無力ではない」と話した。「9・11」以降の世界は、九条の理念が説得力を持って輝いている。「今こそ旬」を、このフェスタで確信にした参加者は多かったに違いない。

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「宣戦の詔書」を知っていますか

12月8日によせて、長田創一郎さん(こぶし町)に聞く

 「堪へ難キヲ堪へ忍ビ難キヲ忍ビ以テ萬世ノ為二…」という『戦争終結の証書』は有名であり、終戦時に直接耳にしなくても、ニュース映画などで聞き覚えのある人は多いと思われる。

 『軍隊経験者は『宣戦の詔勅』(正式には『詔書』)の方が忘れられないのではないか、私は今でも最後まで一語一句まちがえずに言える」という話を聞いて驚きとショックをうけた。

 というのは、私も『昭和二十年/一九四五年』という歴史書を編集したにもかかわらず、戦時中に『宣戦の詔書』が国民の生活の上に重くのしかかっていたことを知らなかったからである。

 18歳でアジア・太平洋戦争の開戦(昭和16年を体験した長田創一郎さん(こぶし町)に話を聞いた。

戦時中の「天皇のお言葉」

 長田さんは、昭和16(1941)年10月15日、国民徴用命によって名古屋の「愛知時計」(名古屋では「松阪屋」と並ぶ中京財閥。当時、海軍専管工場の指定を受け戦艦、航空機の製造・開発にあたっており、のちに航空機部門を「愛知航空機」として分離独立させた)に徴用された。

 当時の工場生活は、朝七時始業、終業は午後5時だった。作業開始前に毎朝朝礼が行われ、必ず「産業戦士訓」を朗誦させられた。その内容は「われらは日本人なり、われらは産業戦士なり、天皇陛下の御為に生まれ、天皇陛下の御為に働き、天皇陛下の御為に死せん」というものであった。

 その年の12月8日、アジア・太平洋戦争が始まるこの時発せられたのが『宣戦の詔書』である。

 開戦と同時に毎月8日は「大詔奉戴日」として、必ず「天佑ヲ保有シ萬世一系ノ星祥(ソ)ヲ践(フ)メル大曰本帝国天皇ハ…(中略)朕茲に米国及英国二対シテ戦ヲ宣ス」以下の『宣戦の詔書』を社長が朗読し、それを拡声器を通じて全工場に流す。その間、全社員は直立不動の姿勢をとらされた。

軍隊における『宣戦の詔書』

 その後、長田さんは、昭和18年4月に徴兵検査を受け、第一乙種の判定をうけ、翌19年8月、福岡県の第五航空教育隊に入営する。その後、宇都宮陸軍航空廠に転属命令が下る。

 この間の軍隊生活でも『宣戦の詔勅』は付いて回る。
 一日の終わりの日夕(にっせき)点呼の際、週番士官が一人を指名し(だれが指名されるか全く不明)、日によって『軍人勅諭』、『宣戦の詔書』、『典範令(航空兵操典など)』のうちのどれかを暗唱させる。途中、つっかえでもしようものなら、たちどころにピンタが飛ぶ。まさに野間宏の『真空地帯』の世界だ。こうした経緯で60数年以上経った今でも、忘れていないとのことである。
 最後に長田さんに全文を唱してもらったが、なんとも言えぬ複雑な思いにとらわれた。

(聞き書き間島 弘)

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私は、私にできることをし続けたい

浅野美恵子(所沢市議会議員)

 「ハチドリのひとしずく」って名の物語を知っていますか?私は、最近知って勇気をもらいました。みな様にお伝えします。

 『森が、燃えていました。
 森の生き物たちは、われ先にと逃げていきました。
 でも、クリキンデイという名のハチドリだけは、行ったり来たりして、くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは、火の上に落としていきます。
 動物たちがそれを見て、「そんなことをしていったい何になるんだ」と言って笑います。
 クリキンデイはこう答えました。「私は、私にできることをしているだけ」』

 この短い物語に出会った時、私はちょうど、次に記す新聞記事を読んでショックを受けている時期でした。「あなたの残業代・休日出勤手当が消えてしまう!?厚生労働省が導入を検討している日本版ホワイトカラー・エグゼンブション(労働時間規制の適応除外)簡単に言えば、一定の要件を満たすホワイトカラーのサラリーマンについて「残業・休日出勤手当ゼロ」を、合理化する制度だが、これによると、全サラリーマンヘの収入が年間総額11兆6000億円、一人当たり114万円の収入ダウンになるという試算もある。経団連は年収400万円以上のサラリーマンに適用を求めているそうだ」それを読み調べてみたら労働政策審議会で現在、審議されていて12月には答申が出され、来年の通常国会で採決する方向で政府が予定しているそうです。こんな法案が通ったら、家計に直接の打撃になるし、と言って残業を拒否するとリストラされる不安から、断り切れずに働き、過労死する人が今以上に増加する事は明らかです。

「労働法制の規制緩和」政策が、派遣社員・契約・請負・パートの非正規労働者を増やし、日本の国の働く人の三分の一は、そうなってしまいました。そのうちの78%の人の年収が199万円以下という衝撃的な事実を最近知って、その上、正規労働者も、残業代ゼロなんて…。これでは、結婚し子どもを産み育てたいと思う人、または思っても出来ない若者が益々増えてしまうなあ…と私は、暗い気持ちになっていました。少子高齢化社会の中で市議の仕事として、少しでも「もっと子育てしやすい所沢市」を目指して多くの施策を提案し、実現もしてきました。でも、地方行政の施策に加え、社会を支える働く人たちの条件が、良くなる国の子育てしやすい施策の実現を心から願っていました。でも、これでは悪くなっていき、少子化は防げません。私たちの先輩が築き上げてきた労働基準法が、この法案が通ると壊されてしまいます。

ハチドリから勇気もらいました

 戦後経済成長を目指し、経済発展をし続けてきた日本。「経済が成長する為に必要なことだ」と言う言葉で、環境破壊も健康被害も戦争も「まあ、仕方がない」と流れて行き、相変わらずGNP(国民総生産)GDP(国内総生産)の数字が大きくなる事が社会の豊かさと、人々の幸福が計れると信している人たちがいて、国の労働政策などを決定しているのです。

 経済の特徴は、成長し続けなければならないと言う困った面がありますね。でも、中身は?使われたお金ですから、犯罪、災害、事故などを回復する為に使われたお金もGNPやGDPの数字を上げているのです。アメリカでは武器を作り売買したお金も、この数字を上げる役割をして経済発展をして、アメリカは世界で最も豊かな国となっているのでしようか?

 日本もこの頃はアメリカの経済界にそっくりの方向を目指しているように思えます。この経済発展を認める限り、効率が早い事が評価され要領が悪い人は取り残され、社会に対立が残り、憎しみやひがみが広がり、平和が保ちにくくなって来ています。だからこそ、私は経済発展で自分の幸福を計るのではなく、「助け合う事」「認め合う事」「子どもは子どもらしく遊ぶ事」「家族との団らんをとる事」「愛する人(たち)の為に時間を使う事」などで幸福を計れる自分自身になりたい。そして、その視点で仕事をしていきたいと決意するこの頃です。

 私は私のできることをしていきたいと、ハチドリから勇気をもらいました。九条の会に入ったのも今、私の出来る事の大切な一つです。

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「核持ち込み」の恐れ…非核三原則堅持の再確認を 1

池田龍夫 (ジャーナリスト・元毎日新聞)

 北朝鮮の核実験強行によって、世界は揺れに揺れている。「北朝鮮への国連制裁」「ミサイル防衛網強化」「核ドミノ現象の恐れ」……物騒な動きが危機を増幅している。この時代状況に乗じ、不安感を煽ってナショナリズム(愛国心)喚起のテコにしようとの謀略に騙されたら一大事だ。憲法九条はもとより、「非核三原則」を堅持してきた日本国民は、今こそ「国是を守る」覚悟を固めなければならない。

「核保有の議論も…」と外相、政調会長の暴言

 北朝鮮の暴挙に対して国連安全保障理事会は10月14日(日本時間15日未明)、国連憲章第7章に基づく制裁決議を全会一致で採択した。中国・ロシアに配慮して、非軍事的な経済制裁になったが、一部タカ派政治家から驚くべき発言が飛び出した。

 15曰朝「テレビ朝日」に出演した中川昭一・自民党政調会長が「(日本に)核があることで、攻められないようにするために。その選択肢として核(兵器の使用)ということも議論としてある。議論は大いにしないと(いけない)」と熱っぽく語ったのである。「もちろん非核三原則があるが、憲法でも核保有を禁止していない」とも付け加えている(毎日10月16日朝刊)。

 18曰には麻生太郎外相が衆院外務委員会で「核保有の議論を全くしていないのは多分日本自身であり、他の国がみんなしているのが現実だ。隣の国が(核兵器を)持つとなった時に、一つの考え方としていろいろな議論をしておくのは大事だ」と述べた(朝曰10月19日朝刊)。

 核拡散を防ぐため全世界が懸命に努力してい最中に、自民党の政策責任者と外相の相次ぐ暴言には呆れ果てる。安倍晋三首相をはじめ他の閣僚・党幹部は「非核三原則は、一切変更しない」と述べて両発言を打ち消しているが、北朝鮮危機に便乗して、自民党政府の“本音”が口をついて出たとも勘ぐれる。核保有・ミサイル防衛に関し、安倍首相が官房副長官時代の02年5月13日に行った講演の衝撃が蘇る。早稲田大学客員教授・田原聡一朗氏主催「大隈塾」のゲストとして「危機管理と意思決定」と題する講演で述べたもので、当時ホットな政治課題になっていた「有事法制関連法案」が主要テーマだった。有事法制の必要性を講演したあと、田原氏との質疑応答で“踏み込んだ発言”をしているので、参考のため問題個所をそっくり引用しておきたい(サンデー毎日02年6月・2号)。

 田原氏「有事法制ができても、北朝鮮のミサイル基地は攻撃できないでしょう。これは撃っちゃいけないんでしょう。先制攻撃だから」
 安倍氏「いやいや、違うんです。先制攻撃はしませんよ。しかし、先制攻撃を完全に否定はしていないのですけども、要するに『攻撃に着手したのは攻撃』と見なすんです。(日本に向けて)撃ちますよという時には、一応ここで攻撃を『座して死を待つべきでない』といってですね、この基地をたたくことはできるんです。(略)撃たれたら打ち返すということが、初めて抑止力になります」
 田原氏「じゃあ、日本は大陸間弾道弾を作ってもいい?」
 安倍氏「大陸間弾道弾はですね、憲法上は問題ではない」

 「ええっ」と、驚いたような声を上げる田原氏。そして、安倍氏は「憲法上は原子爆弾だって問題ではないですからね。憲法上は。小型であればですね」とも断言した。田原氏が「今のは、むしろ個人的見解と見たほうがいいの?大陸間弾道弾なんて持てるんだよ、というのは」と念を押すと、「それは私の見解ではなくてですね。大陸間弾道弾、戦略ミサイルで都市を狙うというのはダメですよ。日本に撃ってくるミサイルを撃つということは、これはできます。その時に、例えばこれは、日本は非核三原則がありますからやりませんけども、戦術核を使うということは昭和35年(1960年)の岸(信介=故人)総理答弁で『違憲ではない』という答弁がされています。それは違憲ではないのですが、日本人はちょっとそこを誤解しているんです。ただそれ(戦術核の使用)はやりませんけどもね。ただ、これは法律論と政策論で別ですから。できることは全部やるわけではないですから」

 この「安倍発言」を受けて、福田康夫官房長官(当時)は02年5月31日「非核三原則は今までは憲法に近かったけれども、これからはどうなるのか。憲法改正を言う時代だから、非核三原則だって、国際緊張が高まれば、国民が『持つべきではないか』となるかもしれない」(毎日02年6月1日朝刊)と語って、物議を呼んだ。これは番記者に対するオフレコ発言だったため「政府首脳言明」と固有名詞を伏せて報道されたが、小泉純一郎首相(当時)は「私は何も言ってない。誤報はやめてくれ」と記者団に不満を述べ、その直後に福田官房長官が「実名報道に同意した」という毎日六月四日朝刊の裏話も興味深い。

「米のミサイルを日本に配備せよ」と煽る中西京大教授

 以上、政府・与党首脳の“問題発言”を概観したが、安倍首相のブレーンといわれる中西輝政京大教授の「米の核ミサイルを即時曰本に配備せよ1」との緊急提言に驚愕した。

 同氏が今まで主張してきたことを「週刊文春」(06年10月19曰・19号)誌上で最も刺激的に発表したもので、非核三原則を骨抜きにする恐るべき提言だ。数十万部の大衆週刊誌に、このようなプロパガンダが掲載されたことに、日本国の“危機的状況”を痛感した。非核三原則の「持ち込ませず」の一項を取り払って「米の核ミサイルを日本に配備せよ」ということ。俗耳に入りやすい論理で、ナショナリズムを刺激して“核保有”の道を開こうとの意図を感じる。中西教授は同誌で、「日本が独自に核を持つという選択肢は現実にはありえない。ではどうするか。日本が北朝鮮の核を抑止する唯一の方法、それは米国の核を在日米軍に配備することです。それも核を搭載したイージス艦や潜水艦を日本海に展開しただけでは抑止になりません。日本国内の在日米軍の基地に、北朝鮮に向けたミサイルを目に見えた形で配置して、初めて核は抑止力たりえるのです。もちろんそのためには、非核三原則のうちの『持ち込ませない』の撤廃が必要となる。……日本が独自に核を持つよりは、米国にとってはるかに受け入れやすいプランであるのも確かです」と得々と持論と吹聴しているのである。

 この「中西提言」が安倍政権の政策にどう影響するかは、もちろん定かでないが、安倍首相の“ご意見番”が発した提言だけに今後の行方を厳しく監視することが緊要だ。

「マスコミ九条の会」HPより転載

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拉致問題を重点的にと、NHKに放送命令

報道の自由への介入

 管義偉総務相は11月10日、NHKの橋本元一会長を総務省に呼び、短波ラジオ国際放送で北朝鮮による拉致問題を重点的に扱うよう命令書を手渡した。これまでも放送命令は毎年出ているが、NHKの自主性を配慮して大枠を指示するのにとどめていたが、今回は個別具体的な事項を盛り込んだ異例なものになった。同相は「番組内容などに踏み込むつもりはない」との見解を述べたが、メディア関係者や識者からは「報道の自由への介入」との批判が高まっている。

 また、総務省は、NHKの受信料支払い義務化策の一環とて、テレビを購入した人に購入日や設置場所をNHKに通知するよう義務付ける方向で検討しているという。また、受信料の延滞金や支払いが滞っている時に、利息を上乗せする延滞金を制度化することも検討するという。NHKに対する「飴と鞭(ムチ)」の政策を打出した。

 「放送レポート」編集長の岩崎貞明さんは、放送命令に対して、「国民的な論議もないまま命令を強行したことに強く抗議する。放送実施命令は、憲法の表現・報道の自由や放送法の番組編集の自由を根本から脅かすものだ」と語っている。

 新聞労連は10日、命令の撤回など求める抗議文を発表した、総務省に送付した抗議文では「十分な議論もしないまま性急に命令に突っ走ったことは極めて遺憾」と厳しく指摘したうえで、「個別具体約な命令を出すこと自体が国家による報道への介入であり、報道と表現の自由、さらには憲法の精神まで汚そうとする行為は許せない」と、指摘している。

 新聞協会も同日、「放送法に基づくとはいえ、報道の自由の観点から看過できない」との談話を出した。

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