機関紙3号(2005年6月27日発行)
「世界に誇る日本国憲法を守り、発展させよう」と、日本の知性と良心を代表する、井上ひさし、梅原猛、大江健三郎、奥平康弘、小田実、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔、三木睦子の9氏が呼びかけ人に「九条の会」が発足してから、6月10日で一周年を迎えました。
会の発足にあたって9人は、戦争の放棄や戦力を持たないことを誓った第九条をはじめ、今の憲法を守るよう訴えるアピールを発表しました。憲法とその理念に基づく教育基本法を変えようとする動きを「武力によらない紛争解決をめざす国の在り方を根本的に転換し、軍事優先の国家へ向かう道を歩むもの」と批判する内容です。
世界有数の「軍隊」となった自衛隊が海外派兵されているときに、今の憲法や、それを守ろうとする立場は「非現実的だ」といわれます。しかし同会では、アメリカのイラク攻撃と占領の泥沼化を例に「紛争を武力で解決しようとすることこそ非現実的だ」と訴え、全国で講演会を開いてきました。
「一人ひとりができる、あらゆる努力を」の訴えに、全国に「会」が次々に作られ、その数は、今年に入ってから急増し、2007(5月末現在)の「会」が結成されています。「マスコミ・文化 九条の会 所沢」もその一つです。三ケタの「会」が作られたところは、北海道、青森、東京、神奈川、長野、愛知、大阪、京都です。埼玉では、59の「会」が結成されています。医療人、映画人、科学者、詩人、俳人、スポーツ、マスコミ、女性、宗教者、農林水産など、各分野に及び広範な人々が「会」への賛同を表明しています。
大阪では、人間国宝の桂米朝さん(落語)、吉田玉男さん(文楽)、藤本義一さん(作家)ら、14人の呼びかけで「九条の会・おおさか」が結成されています。大学生の「九条の会」の結成も相次ぎ、現在まで44(準備会も含む)にのぼっています。7月30日には東京・有明の有明コロシアムで大規模な集会を開く予定です。
「日本国憲法はいま、大きな試練にさらされています」とし、井上ひさし氏ら9人の文化人が「あらためて憲法九条を激動する世界に輝かせよう」との訴えを出されたのは、2004年6月10日でした。それからちょうど1年。日本の各地域・分野には、すでに2007の「九条の会」が誕生しています。
私たちも、今年3月にその隊列に加わり、すでに2回の講演会を開催、憲法九条が世界的意義を持つ宝であることを学びました。
しかし、自民党を中心とする勢力は野望を捨てず、改憲を容易にするために、国民投票法案まで用意しています。
これらの動きを押しとどめるには、どうすべきか。方法はいろいろあるでしょうが、結局は会員を増やすこと、そして一人でも多くの人に現在の憲法のすばらしさを解ってもらうことが基本だと考えます。
講演会、小グループの勉強会、署名、ビラによる訴えかけなどにも、いっそう力を入れていきたいと考えています。
人間で言えば、初誕生日のころ、立ち歩きができるようになるなど、飛躍的な成長がみられる時期です。他の九条の会とも力をあわせ、さらに大きな前進をはかっていきましょう。
機関紙3 もくじへ「憲法『改正』なんのため?だれのため?」と題して、「マスコミ・文化 九条の会 所沢」の5・28集会が5月28日、所沢市民文化センター「ミューズ」で開かれ、市民など110人が参加しました。冒頭、勝木英夫代表は「2回目の講演会を開くことができました。これからもこの会を大きくするために力を貸して下さい」と挨拶しました。満員とはいかなかったが、参加者の多彩な顔ぶれは最近のメディアへの関心の深さを示すものです。
ついで日本新聞協会研究所長や東大新聞研究所教授など歴任された、桂敬一・立正大学教授は、「改憲勢力の現状とメディアの責任」との演題で講演した。今年の憲法記念日前後の全国各紙の社説、論調を分析して紹介し、読売、産経、日経らの改憲メディアがどんなに煽っても、ブロック紙(道新、中日・東京、西日本など)や地方紙など、新聞発行部数の6割を占める新聞が冷静に護憲の立場での報道が続けられていると述べ、「市民とジャーナリストが結びつくことで状況は変えられる、『護憲』とは、憲法を丸ごと静かに抱きかかえ、じっと動かず、声も立てずにいることではない。積極的に行動し、無責任な改憲メディアの政治宣伝を跳ね返すことこそ、真の『護憲』だ」と指摘して、「賢い読者になろう」と呼びかけました。
ジャーナリストの近田洋一さんは、出身地でもある、沖縄・辺野古の海上基地リポートのビデオを上映しながら、「こういうシーンは本土のメディアでは、報じられていない。米軍ヘリの墜落でも、全国紙の扱いは小さい。これは地方と中央の『温度差』ではなく、報道する側の『感度差』にある」と語ったうえで、沖縄の2紙や地元・埼玉新聞の紙面を紹介しながら、大手メディアの中立公正を欠く報道は、異様で新聞倫理綱領違反ではないかと指摘しました。
メディア総研事務局長、「放送レポート」編集長の岩崎貞明さんは、「動物がテレビをにぎわすと、いつも危ない、何かが隠される」と笑わせたうえで、「報道モニター制度」など政権側のチェックの目が厳しくなっていることや右翼からの「偏向報道」の攻撃をおそれる放送局の実態を伝えました。
桂教授は全国各新聞の社説・主張・論説欄にみる改憲問題に対する姿勢(2005年)を朝日新聞藤森研記者のまとめた調査データをもとに、独自の調査も含めた詳細な資料をもとに講演を進めた。
九条を中心に「護憲」の新聞社16社81紙 合計1800万部 全体の41%の内容を社説の見出しなどもあげ、昨年との変化なども加えて分析した。31社33紙が護憲と護憲的論憲の立場をとっていること、読者数は58%になることをを示した。
今年の年憲法記念日の主要紙・改憲世論調査の結果については読売、日経、毎日、北海道、共同通信、東京、朝日などの各紙の世論調査を詳しく紹介し分析した。
設問の仕方、集約の仕方に問題もあるが、憲法を変えたほうが良いとする意見が、昨年と比べて今年は減っていることなどを指摘て「九条を守れの声は草の根で強まっている。これは希望だ」と語った。
「読売」「産経」が改憲をあおる立場をとり、自民党がその改憲論を取り入れて「改正大綱」を作っていること、憲法調査会の最終報告書を改憲へ誘導していく方向で紙面作りをしている。こうした傾向は新聞各社各社の基本姿勢に問題あることを指摘、読者は論調に踊らされず、憲法九条を変えることに慎重な考えを示している、と紹介した。
全体を通して、地方紙がよく健闘しており、全国紙のなかにもキラリとひかる記事があるとし、その一例として、読売が05年1月26日夕刊で「日本国憲法の輝きぜひ手に」との見出しで、都の保健師・鄭(在日韓国人二世)さんが都を相手に、国籍による登用制限の是非を争ってきた裁判を報じた記事をあげ、ここには憲法の理念を守る姿勢が貫かれており、翌日の最高裁の判決を伝えた記事はそれとは反対の立場であったと指摘しました。
市民とジャーナリストが結びつくことで状況は変えられる。改憲による国民生活への影響を知らせながら、憲法を守るアクテイブな行動を展開しよう」と連帯を訴えた。
「私は沖縄の出身で、自ら学んだ沖縄国際大学にヘリが墜落したとき、沖縄に戻り取材をした。そのとき、稲嶺県知事は即座に上京、政府に抗議した。そのとき驚いたのは全国紙のきわめて慎ましやかな扱いです。知事は持参した地元の琉球新報と沖縄タイムス二紙を開き『事件の重要性について、地方と中央ではこんなに温度差がある』と抗議した」と近田さんは述べた。そして「温度差がどのようなものであるか、ビデオで沖縄県名護市辺野古海上ヘリ基地建設の反対運動を紹介する」と地元のテレビ局が制作した10分間のビデオを上映した。
このビデオを見た参加者は、市民が海に潜ってまでの反対運動をみて「このような運動があったことも知らない」「このような事実が本土には伝わっていない」と語った。
近田さんは「憲法、教育基本法改定でも反対の運動はほとんど取り上げられていない。全国紙、通信社とも、事実を伝えるのが基本のはず。バランスある報道を」と述べ、「埼玉新聞は、憲法の尊重、新聞倫理綱領に基づいて権力からの独立、知る権利の確保、公正な報道をスタンスとしている」と話した。
岩崎さんは「何か重要なことが起きようとしているときは、別な方へ関心が向く。タマちゃんだったり、レッサーパンダだったり。動物もので沸き立つときは危ない」「ムードに流されない日常的な批判と警戒が必要」と笑わせながら、どきりとさせた。
「皆さんは寝ていて見なかったでしょうが、5月3日の深夜、フジテレビでシリーズ『憲法』を報道しました、その中で自衛隊イラク派遣の際の小泉首相の記者会見を厳しく批判しています」と詳しく紹介しました。
時間がなくて、岩崎さんは用意された詳しい報告ができなかったので、準備されたメモ「最近の番組から」の一部を紹介します。
5月3日 NHK憲法記念日特集『いま憲法にどうむきあうか』(山口在住 K)
永田町の改憲論議を熱心に伝える、読売、朝日、毎日の「全国紙」も、大江健三郎さんら著名人9人からなる「九条の会」の活動やその呼びかけに応え全国に2000を超す「九条の会」が発足し、地域の地道な護憲運動が紙面に載ることはまれである。中立公平を欠く報道は新聞倫理綱領に反するとの指摘もある中で、無視を続ける読売、産経などの改憲派メディアと護憲の運動も積極的に取り上げる地方紙との温度差(感度差)が広がってきた。
読売新聞は94年に「憲法改正試案」を一面を使って掲載。改憲論議に火付け役をはたし、その後も新聞社として積極的、継続的に改憲を主張してきた。日本一の部数を誇る巨大メディアの読売新聞が提言として、一面を割いて主張するが、その反論は受け付けることはしないという。本来、国民が論議しやすいように多様な資料を提供するのが、メディアの役割でないのか。
「言論の自由」を尊重するのは当然だが、株式会社という利益を追求する組織が「憲法を変えろ」と、読者のための紙面まで使い、そこまで踏み込むことは不遜な行為と言わざるをえない。ジャーナリズムの本丸の仕事ではないだろう。
機関紙3 もくじへマスメディアに動かされる多くの人々は、知らず知らずのうちに、改憲は世の流れだ。時代が変われば、新しい時代に合った憲法が必要なのだ。そのための憲法調査会や研究はおおいにすべきだ。一見なるほど、それもそうだ、といいかねないこの頃です。では憲法九条はどういう内容でしょうか。何度も何度も読んでみました。要約すると、「私たち日本人は、もう決して戦争はしません。平和を望みます。国と国との争いは武力ではなく、話し合いで解決します。そのために陸、海、空の軍隊は持ちません。国と国との戦争はすることを認めません」ということです。このことは子供でも大人でもわかるやさしい内容です。それをアメリカのいいなりになり、警察予備隊→保安隊→自衛隊、アメリカの指揮で動き回っている日本政府。憲法で決めてある事をことごとく破り、今日にいたっているのです。それを憲法が悪いように言うことが本末転倒ということです。
自分たちが悪いことをしていて、決めていることが悪いからのようにいうのと同じです。子供でもわかることが、今のマスコミは一部を除き、改憲に賛成というのですから驚きです。現在の日本政府は外国からどう見られているのか、全然わかっていない政府の人々。まったく腹立だしい限りです。
侵略者だった日本は、被害者の立場に立って、中国、韓国、インドネシア、タイ、ミャンマー、インド、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドの人々の気持ちになって考えればすぐわかることです。憲法前文を理解できない首相を選んだ国民の責任ではないのか。
改憲は→改悪→戦力を持って良い→自衛軍→だけでなく日米安保条約からして集団的自衛権に発展するのが、多くの人々が心配していることです。
機関紙3 もくじへ岡部 昭 (山口在住・彫金家)
中学一年の頃であったろうか、日本軍兵士として中国で戦かってきた小父さんが帰国し、我が家に訪れてきた。平和な頃、たしか神田で帽子屋をしていたひとだ。大人達の話も終わり、是非聞きたい事があって、小父さんの横に並ぶように座って二人だけで話を始めた。
中国の長沙を占領したというニユースが新聞一面のトッブを飾ったのはかなり前なのに、一年足らずで又長沙占領のニユースが一面に出た。負けない神の軍隊も負けたのかなと思い聞くと、戦争は勝って占領しても皆逃げて、町の中には人っ子一人いない。食料を集めて飯を食えば、軍は隣町へ向かうだけ、我々が居なくなれぱ逃げた中国人は又家に戻るわけだ、と答えたその後ぼそぼそと話をし姶めた。軍隊には後ろから朝鮮の女が荷物を担いでついて来る。戦闘が終わると、空いた民家の中で兵隊達の相手をするわけだ。家の外には兵隊が行列して、皆待ち遠しくて戸をどんどんと叩いて「早くしろよ」と怒鳴る・・・、戦争は塹壕を掘って、敵と撃ち合う、狙撃兵は恐いよ、日本橋の大きな商人の息子は臆病で鉄砲も撃てず、突撃命令でも塹壕の中で伏せたままだったから、将校がピストルで後ろから頭を撃って殺してしまった。体中が凍り付くような話が、恐ろしくて薄汚い声と映像になって頭の中に焼き付いてしまった。…「早くしろよ」「着物姿の便器にしがみつく兵士」「砕けた西瓜のような兵士の頭」・・・。
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